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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)142号 判決 1988年6月28日

原告 小泉英政 外一名

被告 千葉県収用委員会 建設大臣

訴訟代理人 中山弘幸 岩井明広 外八名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告千葉県収用委員会(以下「被告委員会」という。)が昭和四六年六月一二日付けでした別紙一「処分目録」(一)記載の緊急裁決(以下「本件緊急裁決」という。)のうち、別紙二「物件目録」記載の土地に係る部分を取り消す。

2  被告建設大臣(以下「被告大臣」という。)が昭和五五年八月二九日付けでした別紙一「処分目録」(二)記載の裁決(以下「本件裁決」という。)のうち、審査請求人の請求を棄却するとの部分を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

(一) 亡小泉よね(以下「よね」という。)は、別紙二「物件目録」(二)記載の土地(収用事件番号一八番の土地。以下「本件一八番地」という。)上に家屋を所有して同所に居住し、同目録(一)記載の土地(収用事件番号一二番の土地。以下「本件一二番地」といい、右両土地を併せて「本件両土地」という。)及び千葉県成田市古込字込前一六五番地の一の土地、八九七・三平方メートル(収用事件番号二四番の土地。以下「二四番地」という。)を耕作していた。

(二) 原告らは夫婦であり、昭和四八年一〇月、よねとの間で養子縁組をし、その届出をした。

(三) よねは、同年一二月一七日死亡し、原告らはよねの地位を相続により承継した。

2  行政処分の存在

(一) 新東京国際空港公団(以下「公団」という。)は、昭和四四年一二月一六日付けで起業者を公団とする土地収用法(以下「収用法」という。)に定める土地を収用することができる事業(以下「収用事業」という。)の認定の告示がされた別紙三記載の内容の新東京国際空港建設事業(以下「本件事業」という。)のうち、別紙四記載の第一期施設の工事分につき昭和四五年一二月二八日付けで公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という。)に定める特定公共事業(以下「特公事業」という。)の認定の告示がされた新東京国際空港第一期建設事業(以下「本件第一期事業」という。)において、昭和四六年二月三日、別紙一「処分目録」(一)記載の土地について、本件事業に係る収用法に基づき行つていた収用裁決としての権利取得裁決の申請及び明渡裁決の申立てにつき、特措法に基づき緊急裁決の申立てを行い、被告委員会は、同年六月一二日付けで本件緊急裁決をした。

(二) よねは、同年七月一三日、被告大臣に対し、本件緊急裁決につき審査請求をしたが(以下「本件審査請求」という。)、被告大臣は、右審査請求に対し、昭和五五年八月二九日付けで本件裁決をし、同裁決書は、同年九月一日、原告らに送達された。

3  本件緊急裁決の違法性

(一) 収用法及び特措法の違憲性(憲法二九条三項に定める正当な補償を満たし得ない違法)

(1) 憲法二九条三項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と規定し、正当な補償を支払うことによつて私人の財産を公共事業のために収用することを認めているが、右の正当な補償というのは、(i)収用前の生活状態を対象とした補償では生存権の保障に不足をきたす場合には、最低限、生存権を保障するための補償(生存権的性格)、(ii)収用前後において経済的状態が等しければ足りるというものではなく、収用前後の生活状態が等しくなるような補償(原状回復的性格)、(iii)収用により従前の職業を維持継続できないときでも、収入面においても従前と同じ生活ができる補償(生活安定的補償)を満たすものでなければならないものであり、生活補償を意味するものと解すべきである。

(2) 収用法七一条は、収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額について収用事業の認定の告示の時における相当な価格(以下「事業認定時価格」という。)を基準とする旨規定しているが、補償金の額の決定において、右価格を基準とすると、実際に収用される時までの生活水準の上昇、物価の上昇、被収用地周辺の土地価格の高騰等の事情が考慮されないことになり、事業認定時価格を基準とする右の損失補償では生活補償の実質を持ち得ず、憲法二九条三項で保障する正当な補償を満たすことができないから、収用法七一条は憲法二九条三項に違反し、無効である。したがつて、本件緊急裁決は違憲な収用法七一条が適用されて行われたものとして違法である。

(3) 特措法は、緊急裁決について、その申立てがあつた日から二か月以内に裁決をしなければならないとしている(二〇条四項)ため、損失の補償をすべき場合でも、補償の方法又は金額について審理を尽くしていないものについては仮補償金を定めて裁決することができる(二一条一項)としている。しかし、仮補償金は、その額が概算見積り額であつて(同項)、後に清算手続が予定されているものであり(三三条)、その額の当否について直ちに不服申立てをすることができないものである(四二条三項)。これらの点に鑑みると、仮補償金は、確定した金額であつて、後に清算の手続がなく、その補償金額の当否について直ちに不服申立てをすることができる、収用法に定める前払いを原則とする補償金とは大きく異なるものである。また、特措法は、損失の補償に関する事項で緊急裁決の時までに審理を尽くさなかつたものについては、なお引続き審理し、遅滞なく補償裁決しなければならない(三〇条一項)と定めているが、遅滞なくというだけでは補償裁決時期の限定がないのと同じである。ちなみに、本件緊急裁決は昭和四六年六月一二日に仮補償金を定めて行われたが、右仮補償金に関して昭和五五年一一月の時点においても未だ補償裁決がされていない。

このように、特措法二一条一項の仮補償金による補償によつて行われる緊急裁決制度は、収用時における正当な補償を実現し得ず、憲法二九条三項で保障する正当な補償を満たすことができないから、同項に反する無効なものであり、また、補償について裁判を受ける権利を否定するものである。したがつて、本件緊急裁決は、違憲な特措法二一条一項を適用して行われた違法があり、さらに、本件では、緊急裁決後一〇年以上も補償裁決がされておらず、速やかな補償がされないという違法がある。

(二) 憲法二五条、三一条違反(恣意的申立てを受理した違法)

よねが生計を維持するために最低限必要で、かつ、一括して使用耕作して初めて生計を維持することができた本件両土地及び二四番地は、いずれも本件第一期事業の起業地(以下「第一期工事区域」といい、本件事業の起業地のうち、第一期工事区域以外の部分を「第二期工事区域」という。)の中に存在していた。公団は、右三筆の土地の全部を対象として緊急裁決の申立てをすることができたにもかかわらず、あえて二四番地をその対象からはずして本件両土地のみをその対象とし、よねにとつて生計維持のため一括して利用することが絶対的に必要であつた右三筆の土地を二つに分断し、よねの生存権を害することになる本件緊急裁決の申立てをしたが、これに対し、被告委員会は、右のような事情があるにもかかわらず、右申立てをそのまま受理した。しかし、右申立ては、収用法がその七四条の残地補償や同法七六条の残地収用の制度によつて、被収用者に対して一括利用を要する土地の一部の収用によつて残りの土地に関し損失をきたさないように配慮している趣旨を無視するものであつて、憲法三一条に定める適正手続条項に反し、同法二五条に定める生存権を害することが明らかである。したがつて、このような濫用的申立てを受理してされた本件緊急裁決は違法である。

(三) 収用法四七条違反(却下事由の看過)

(1) 本件緊急裁決に先行して、別表一のとおり、本件事業における収用裁決申請(以下、各収用裁決申請の表示は別表一のA欄記載の表示によつて行う。)が行われており、右申請は、本件緊急裁決申立て当時も維持されていたものであつて、本件緊急裁決申立ては、第二次ないし第四次申請に係る土地のうち第一期工事区域の中の土地に関してされたものである。右申請に係る事業計画は、本件事業の事業認定申請書に添付された事業計画書に記載されたものであつて、その事業計画内容は、別紙三のとおりである。

しかし、本件における特公事業認定に係る事業は本件第一期事業であり、その特公事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された事業計画内容は、別紙四のとおりである。

(2) 特措法一九条により読み替えられた収用法四七条二号に定める「申請に係る事業計画」とは、本件事業における収用裁決申請に係る事業計画を指すものであつて、この事業計画と特措法四条二項一号に規定する「特定公共事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画」とは、右(1)のとおり、著しく異なるので、本件緊急裁決の申立ては、収用法四七条二号に該当し、同条により却下されるべきものである。したがつて、本件緊急裁決は、同条に違反するものとして違法である。

(四) 特措法二〇条一項違反その一(裁決の遅延により事業の施行に支障を及ぼすおそれの判断の誤り)

(1) 収用委員会は、特公事業に係る緊急裁決の申立てがあつた場合、当該事業に重大な公共性と緊急性があることを前提としつつ、その裁決が遅滞することによつて右事業の施行に支障を及ぼすおそれがあるか否かを判断しなければならないが、その場合、既に事業が特公事業認定を受けているからといつて、右支障のおそれの有無を判断するうえで、事業の緊急性の有無に関する判断をする必要がなくなるものではなく、なお前提問題として、特公事業認定の要件である事業の緊急性の有無に関する判断をする必要がある。そして、その判断の具体的内容としては、(i)土地の取得以外の事業の進行状況、(ii)事業の施行上不可決である起業地以外の任意買収により取得することとされている土地の取得状況及びその土地に対する工事の進捗状況、(iii)緊急裁決の申立てに係る土地以外の起業地内の土地の取得状況、との関連が判断されるべき事項である。

(2) 本件緊急裁決当時、本件第一事業は次の<1>ないし<3>の状況下にあつたのであるから、明渡裁決が遅延することによつて本件第一期事業の施行に支障を及ぼすおそれはなかつたのであるが、被告委員会は、本件第一期事業が特公事業を受けていることから、事業の緊急性に関する判断の必要がないものとしてそれにつき具体的な検討を行わず、特措法二〇条一項に定める要件を満たさないにもかかわらず、本件緊急裁決をした。したがつて、本件緊急裁決は、事業の緊急性の要件を欠く点において違法である。

<1> 土地取得以外の事業の進行状況との関連

新東京国際空港(以下「新空港」という。)に於ける航空燃料の確保については、千葉港頭に油槽船で運ばれてきち航空燃料を、同港頭の給油施設を経由し、新空港まで約四二キロメートルにわたり敷設するパイプラインにより輸送して確保するという計画であつた。

しかし、右パイプラインの敷設は、昭和四六年八月に埋設ルートが発表になり、実際に工事が着工されたのは、新空港敷地内において同年一二月二三日であり、その他は昭和四七年三月一五日に成田市、同年五月二九日に酒々井町、同年六月二日に富里村、同月二六日に千葉市、同年八月五日に四街道市、同月二五日に佐倉市、においてそれぞれ着工されたものである。しかも、パイプライン埋設用地の取得率は、昭和五〇年六月末において、佐倉・四街道工区では約二六パーセント、酒々井・富里工区では約七二パーセントでしかなく、当初のパイプライン埋設予定地であつた東関東自動車道沿いの民有地の取得ができず、鉄道や河川の横断部では技術的な調査が難行し、さらに、住宅密集地を通過することになる千葉市内では、危険物搬送に対する反対運動が展開されていた。その結果、暫定的に鉄道による貨物輸送の提案がされ、昭和五二年九月に至つてようやく右輸送方法につき、公団と関係市町村との間に合意が成立した。

以上のとおり、昭和四六年六月一二日の本件緊急裁決当時、航空燃料の輸送計画が当初予定していた時期に完成するとの見通しが全くなかつたことは事後の経過からして明らかであり、このように、当時は新空港における航空燃料の輸送を確保する見通しが立つていない段階であつた。

<2> 第一期工事区域以外の土地の取得状況及び工事の進捗状況との関連

新空港の工事実施計画の認可は昭和四二年一月三〇日に告示されたが、航空保安施設についての工事実施計画は、右計画とは別にされ、昭和四四年一〇月三日に認可された。本件第一期事業の起業地(第一期工事区域)には、右の航空保安施設用地は含まれておらず、同事業認定当時、右用地は任意買収により取得するものとされていた。

しかし、本件第一期事業で建設するA滑走路の南側の航空保安施設用地となる地域は、岩山部落と呼ばれる所であり、空港建設反対運動の最も強固な地域であつたから、本件緊急裁決当時、右地域の土地を任意買収により取得できる見通しは全くなかつた。

その後、A滑走路の南側に配置されるべき進入灯(滑走路末端から九〇〇メートルの範囲に配列される灯火)及びミドルマーカー(滑走路末端から一〇五〇メートルの位置に配置されるもの)の設置予定地が任意買収できないとして、右施設は第一期工事区域内に設置されることになり、その結果、第一期工事区域の境界からA滑走路南側末端までの三〇〇メートル部分及びA滑走路南側末端からA滑走路内へ七五〇メートル部分が右施設の設置用地に当てられ、A滑走路は、予定された長さから七五〇メートル短縮されている。

また、その当時、航空法上、空港の使用開始の障害となる障害物件が、別表二のとおり存在していた。

<3> 第一期工事区域内の土地の取得状況との関連

本件両土地及び二四番地は、いずれも第一期工事区域の端に位置し、それぞれが近接しており、地形的には、本件両土地が二四番地よりやや低い程度で大差はなく、いずれも新空港の構内道路予定地であつた。

公団は、右三筆の土地のうち、本件両土地のみ本件緊急裁決の申立ての対象地とし、本件一二番地について昭和四七年九月一六日に、本件一八番地について同月二〇日にそれぞれ行政代執行をした。しかし、本件緊急裁決の申立てに係るその余の土地については、うち三筆の土地(収用事件番号一一番、同一三番及び同一四番の土地)は代執行の申請をしたものの、後にこれを取り下げ、同年一一月までに任意に明渡しを受け、その他の土地は、本件緊急裁決後一年以上が経過して任意に明渡しを受けている。また、二四番地については、昭和五一年三月三〇日に所有者から任意買収し、同日、原告らに対する明渡訴訟を提起し、昭和五二年一二月二六日、明渡断行の仮処分を経て、ようやく明渡しを受けたものである。

このように、本件両土地に対する代執行があつた後は、緊急裁決及びそれに基づく代執行は全くなく、すべて任意買収によつて用地の取得が行われていることからすると、本件両土地は、早くとも二四番地と同時に明渡しがされれば十分であつたというべきである。

(五) 特措法二〇条一項違反その二(損失補償に関する審理が既に十分であつた状況下における緊急裁決)

(1) 特措法二〇条の緊急裁決と収用法上の収用裁決との相違は、損失補償が概算見積りによる仮補償で足りるか確定補償でなくてはならないかの点のみであり、それ以外は同一の手続によるものであるから、権利取得裁決又は明渡裁決をするに当たり、損失補償以外の手続を除けば収用法上の収用裁決ができるにもかかわらず、損失補償に関する審理だけが不十分の場合にのみ、緊急性のあることを前提として、緊急裁決としての権利取得裁決又は明渡裁決ができるのである。

(2) 本件事業は、昭和四四年一二月一六日に収用事業の認定の告示がされ、これにより本件両土地について事業認定時価格が定まつていたものであり、収用法に基づき本件事業の起業地内の土地につきされた第一次申請に対する収用裁決が、本件緊急裁決に先立つ昭和四五年一二月二六日に出されており、その当時、本件両土地についても収用裁決の申請(本件一二番地は第二次申請、本件一八番地は第三次申請)が行われていたのであるから、本件両土地の補償に関する審理は十分であつたといえる。実際に、本件両土地に対する仮補償金の算定は、収用法七一条に基づき、第一次申請に対する収用裁決と同じ算定根拠、算定方法で計算されているのである。

(3) したがつて、本件緊急裁決の申立てについての審理において、損失の補償に関するものは既に審理が尽くされていたというべきであり、未だその審理が尽くされていないとはいえないから、本件緊急裁決の申立てに対する応答としては確定補償による裁決をすべきであり、仮補償による裁決をすべきではなかつた。したがつて、仮補償による本件緊急裁決は違法である。

(六) 収用法六九条違反(補償金の個別払いの原則違反)

(1) 本件緊急裁決における本件一八番地に対する補償は、同土地の所有者岩沢真治及び収用法八条三項に規定する関係人(以下「関係人」という。)よねの二人につき、各人別に見積ることが困難であるとして、一括して総額で定められ(その総額は、公団の見積額では一四八万一三一二円であり、仮補償金の額では一五七万四六三五円であつた。)、公団は、その仮補償金を一括して供託した。

(2) よねの本件一八番地に対する権利は使用借権であり、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和三七年六月二九日閣議決定。以下「補償基準要綱」という。)一二条の使用貸借による権利に対する補償の算定方法についての定め及び公団が昭和四一年九月二九日に定めた「新東京国際空港公団の土地等の取得に伴う損失補償基準を定める規程」(以下「公団補償規程」という。)により、よねの本件一八番地についての使用借権に対する補償金の見積りは可能であり、収用法六九条ただし書に該当する場合ではなかつた。

(3) しかるに、被告委員会は、本件緊急裁決において、被収用者に損失補償を確実に取得させるために個別払いの原則を規定する収用法六九条本文に違反して、仮補償金を一括して定め、公団をして一括してこれを供託させたものであり、本件緊急裁決には、収用法六九条違反の違法がある。

なお、一括して補償金が供託された場合、被収用者間において協議が整わなければ、補償金の取得のために訴訟等を起こして取得金額を確定しなければならず、それには相当の時間を要するが、よねと岩沢真治とは新空港の建設について対立する態度をとつており、協議ができない場合であつたから、本件一八番地の収用は、右両者の間で取得金額を確定して供託金を取得するまで、無補償であるのと同一の状態である。しかも、現在に至るも、右仮補償金は供託されたままであり、よね及び原告らは、現実に同土地の補償金を受け取つていないのである。

(七) 特措法二三条違反(仮住居による補償の不提供)

特措法二三条は損失補償の一方法として仮住居の提供による補償を規定する。よねは、本件一八番地に唯一の住居を有して生活していたものであるから、同土地が収用される場合には、仮住居が必要であつたが、このような場合には、被告委員会は、よねから仮住居の提供の要求がなくても、仮住居の提供の裁決をしなければならないと解すべきである。したがつて、仮住居の提供のない本件緊急裁決には、特措法二三条違反の違法がある。

(八) 緊急裁決における手続的瑕疵

憲法三一条の適正手続規定は、行政手続においても適用されるものであるところ、公益性の下に土地に対する権利を一方的に剥奪する土地収用においては、より一層の適正手続が保障されなければならない。しかし、以上(1)ないし(4)のとおり、本件緊急裁決については、適正な手続に反する違法がある。

(1) 特措法二〇条二項違反(申立て理由の不記載)

特措法二〇条二項は、緊急裁決の申立てについて、建設省令で定める様式に従い、書面でしなければならないと定め、特措法施行規則四条で、同法二〇条二項の規定による申立書の様式は別記様式第三とするとし、右の申立書様式によれば、申立書に、(i)土地の所在等、(ii)権利取得裁決の有無等、(iii)土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の期限、(iv)緊急裁決を申し立てる理由、以上の四事項を明記することが要求されている。

しかし、本件緊急裁決の申立書には、右(i)ないし(iii)の事項が記載されていたが、(iv)の事項は全く記載されていなかつたのであるから、本件緊急裁決の申立ては、収用法四七条に定める同法の規定に違反するときに該当し、却下されるべきものであつた。

(2) 収用法四七条の三第一項違反(提出書類の不備)

収用法四七条の三第一項二号は、明渡裁決の申立てをする場合に、起業者が収用事業認定の告示があつた後、同法三六条に基づき作成した物件調書を提出しなければならないと規定している。

本件両土地には、補償の対象となり、物件調書に記載されるべき稲立毛が存していたにもかかわらず、本件一二番地については第二次申請に際し、本件一八番地については第三次申請に際し、公団から物件調書が提出されておらず、また、本件緊急裁決までの間にその追完がされていないので、本件両土地に対する本件緊急裁決の申立ては、同法四七条に定める同法の規定に反するときに該当し、却下されるべきものであつた。

(3) 特措法二〇条四項違反(裁決期限の徒過)

特措法二〇条四項は、収用委員会は、緊急裁決の申立てがあつたときは、申請があつた日から二か月以内に裁決をしなければならないと定める。右規定は、以下<1>ないし<7>の理由により、収用委員会が裁決を行い得る期限を限定したものであるから、収用委員会は、右期間を超えては裁決をすることができないのである。しかるに、被告委員会は、本件緊急裁決の申立てがあつた昭和四六年二月三日から二か月を超えた同年六月一二日に本件緊急裁決をしているから、本件緊急裁決には、同項違反の違法がある。

<1> 同項は、「その申立てがあつた日……から二か月以内に裁決しなければならない」と明確に期間を限定している。

<2> 同条五項は、「……期間内に裁決をすることができなかつたときは、すみやかに、その旨を建設大臣に通知しなければならない。と規定し、収用委員会に期間徒過について通知義務を負わせている。

<3> 右<2>の場合、起業者は行政不服審査法(以下「行服法」という。)七条による異議申立てができるが、特措法三八条の二第二項は、右の異議申立てがあるときに限つて、一定の要件の下に、収用委員会が引き続き審理し、裁決することができる旨を規定している。すなわち、右規定は、二か月以内に審理・裁決することの例外として、起業者の異議申立てを条件として継続審理を認めているものであり、収用委員会に対し、職権上自由に、二か月を超えて継続審理をし、裁決をすることを認めたものではない。

<4> そして、右の異議申立てがあつた場合でも、収用委員会が裁決できるのは、異議申立てがあつた日から一か月以内において裁決を行うべき期日を定めた場合に限られるものであり(特措法三八条の二第二項)、これ以外は、建設大臣が収用委員会に代わつて自ら裁決を行うしかなく(同法三八条の三第一項)、起業者から異議申立てがあつた場合ですら、収用委員会が裁決をするについて、異議申立て後一か月以内という期間の制限がある。

<5> 収用法四六条三項は、「収用委員会は、審査の促進を図り、裁決が遅延することがないように努めなければならない。」と定め、また、特措法四条五項は、「建設大臣は、……三か月以内に、……処分を行なうように努めなければならない。」と定めており、特措法二〇条四項の「……しなければならない。」との文言と表現を異にしている。このように、収用法及び特措法では、努力期間(訓示規定)と効力期間(義務規定)とを、法文上明確に区別している。

<6> 昭和三九年法律第一四一号による収用法等の一部改正により、特措法二〇条四項が現行規定に改正されたのであるが、右改正は、収用手続の適正化、迅速化を図ること目的としたもので、このことは、同時に改正された収用法二四条四項、四四条四項(事業認定申請書等や裁決申請書等の写の送付があつた場合に、市町村長がその縦覧等の手続を二週間経過しても行わないときには、知事がこれを代行することができるとの規定)、四〇条ただし書(協議不能のときや協議が成立しないことが明らかであると認められるとき、法定協議を要しないとの規定)、四八条四項ただし書、五項、五二条、五八条、六〇条の二等の規定から明らかである。したがつて、特措法二〇条四項は、右改定の目的に照らし、努力期間(訓示規定)を定めたにとどまらず、効力期間(義務規定)を定めたものと解すべきである。

<7> 特措法二〇条四項が努力期間(訓示規定)を定めた規定であるとすると、被収用者は、いつになつても緊急裁決をされるという立場に立たされることになるが、緊急裁決は緊急性があるということで特別に認められるものであり、それ故、被収用者の権利に対する保護が薄いのであるが、このような性質をもつ緊急裁決がいつになつてもできるということは、ますます被収用者の地位を不安定なものにすることになる。法は、被収用者をいつまでも右のような不安定な地位に置くことを避けるために、緊急裁決ができる期間を申立てがあつた日から二か月と限定し、右期間の徒過に対する救済措置として、起業者の異議申立権、建設大臣の代行裁決権を認めているのである。

(4) 被告委員会の審理手続の違法

被告委員会が行つた本件緊急裁決の審理は、以下<1>ないし<5>のとおり、公正な審理を行うための収用法が定める手続規定に違反し、被収用地の所有者並びにその土地及びその土地上の物件に関して権利を有する関係人(以下、併せて「関係権利者」ともいう。)の審理参加を妨害したものであつて、適正な審理とはいえず、違法である。

<1> 被告委員会は、関係人として第一期工事区域内の土地について無償貸借契約又は使用貸借契約を締結したとする者及び右契約に基づく地位において収用法四三条により意見書を提出していた者(以下「使用契約者等」という。)に対し、合理的な理由なく、関係人とは認められないとして、審理への参加を拒否し、右の者の参加がないまま審理を実施し、本件緊急裁決をした。

<2> 被告委員会は、審理の期日及び場所について、第一期工事区域内の関係権利者に対し通知しなければならない(収用法四六条二項)が、右通知をするに当たつては、関係権利者の意見を十分に徴して、関係権利者が審理に出席することが可能となるよう配慮すべきである。

しかるに、被告委員会は、関係権利者の一部に対して昭和四六年二月二二日付け「審理の開催について(通知)」と題する書面を送付して、審理期日を、同年三月一〇日、同月二三日及び同月二四日と指定した旨を一方的に通知した(ただし、同月一〇日の期日は、後に取り消された。)。これに対し、よねが属していた三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「反対同盟」という。)代理人は、同月六日付け申入書で、二日間連続の審理は差し控えること並びに審理期日について反対同盟及び同代理人らとの話合いのもとに決定されたいことを申し入れた。しかし、被告委員会は、右申入れを受け入れず、同月二三日及び同月二四日の審理期日を実施する旨通知し、また、右代理人が同月一七日付けでした同月二四日の審理期日の変更申請も受け入れず、同月二三日及び同月二四日の審理を実施した。被告委員会は、同月二四日の審理の席上、関係権利者との間で審理の進め方につき十分話し合うことを明言したので、右代理人は、同月二七日付け申入書で、期日等審理の進め方につき協議方を申し入れ、同年四月三日、二名の代理人及び反対同盟の石橋副委員長が被告委員会の但馬会長らと会見し、第三回審理期日を同月二七日とすることを申し入れ、併せて、以後の審理期日について再度打合せを行うことを確認した。しかし、被告委員会の西内事務局長は、同月一二日、審理期日として、同月二七日のほかに、なんら事前に打ち合わせていない同月三〇日を加え、右両日に審理を行うこと及びその後の審理期日については被告委員会においてなんら見通しをもつていないことを明らかにした。そこで、反対同盟傘下の関係権利者は、同月三〇日の審理期日の指定に対して強く抗議し、その取消しを申し入れ、併せて第二次申請分につき五月、第三次申請分につき六月、第四次申請分につき七月にそれぞれ審理を開始する内容の具体案を提示した。しかしながら、被告委員会は、右申入れを無視して同年四月三〇日に審理を実施した。反対同盟傘下の関係権利者は、被告委員会の一方的かつ不公正な態度にもかかわらず、右に提示した案について話合いを持つべく、同年五月七日付け申入書で、同月一二日に折衝することを申し入れ、同日、千葉県庁に赴き、被告委員会との会見を求めたが、収用委員及び西内事務局長が不在であつたため、応対に出た事務局職員に対し、折衝期日として同月二〇日、同月二七日、同年六月二七日の各日を通知し、そのうち都合のよい日を反対同盟代理人に通知されたいとの伝達を申し入れたところ、同職員はこれを確約したところが、被告委員会は、右折衝の申入れにつきなんらの応答もしないまま、理由なく審理を打ち切り、本件緊急裁決をした。

<3> 被告委員会は、審理の場で関係権利者から出された求釈明に対し誠実に答えることなく審理を進めた。

<4> 収用法六三条一項、二項は、関係権利者に対し、審理の場において意見を述べる権利を認めている。しかるに、被告委員会は、「以上の事実、現在までの審理における土地所有者、関係人等の発言内容から、もはや、審理を続行しても当委員会が裁決に必要とする新たな意見を聴取する見込みはほとんどないと認めた。」という恣意的な理由によつて、関係権利者の公開審理における意見陳述の要望があるにもかかわらず、これを認めなかつた。

<5> 被告委員会は、審理に際し、千葉県警察に出動を要請し、審理会場の内外に多数の警察官を待機させ、関係権利者の意思を制圧した状態で審理を行つた。

(九) 特公事業認定における実体要件(特措法七条四号(緊急性)要件)欠缺の違法の承継

(1) 緊急性の意味

土地の収用は、関係権利者の意思に反して強制的に土地を取得するものであるから、事業遂行の手順上、いわば最後の手段として行われるべきものである。したがつて、特公事業認定をするに当たつて、事業遂行上他に解決すべき諸課題がいくつも存し、この課題が解決されない限り事業が施行できる見通しが立つていない場合には、到底その事業につき緊急性があるとすることはできない。

本件第一期事業が特公事業認定を受けたのが昭和四五年一二月であるのに、新空港が完成し、開港されたのは昭和五三年五月であつて、この間約七年半が経過しているが、このような事態に至つたのは、次の(2)のとおり新空港建設そのものにそもそも緊急的必要性がなく、また、次の(3)ないし(7)のとおり、第一期工事区域の土地取得以外の課題の解決の見通しがなかつたものであり、本件第一期事業認定当時、同事業が特公事業として緊急に施行すべきものではなかつたことを示すものである。

しかるに、被告大臣は、本件第一期事業につき、緊急性の要件を満たすものと判断して、特公事業認定を行つたのであるから、右認定は違法である。したがつて、本件第一期事業認定を受けて行われた本件緊急裁決もまた違法である。

(2) 東京国際空港(以下「羽田空港」という。)の処理能力と緊急性の不存在

<1> 発着回数の予測の誤り

本件第一期事業認定当時、新空港が建設されなくても、羽田空港は、航空法上安全かつ十分に所定の需要を充足しており、また、使用飛行機の大型化に伴い、別表三、四のとおり、乗降客数が増加したのに比較し、飛行機の発着回数は増加していなかつたという状況にあつた。

しかし、被告大臣、運輸省及び公団は、発着回数の予測をするうえで不可欠な一機当たりの搭乗員数を推定する際、大型機導入による一機当たりの搭乗員数の増加という重要な要素を捨象するという不当な取扱いを行つている。すなわち、公団作成の「新東京国際空港の計画」によると、昭和四四年三月時点における使用飛行機であつたDC―8及びB―707の最大座席数(オールエコノミー)は一八九から二五九であり、その後導入されたB―747の最大座席数は四九〇であるが、公団作成の「新空港国際線関係基礎需要」においては、DC―8及びB―707の座席数を一三〇から一五〇とし、B―747の座席数を三五六とし、最大座席数の六割ないし七割の座席数を基礎として一機当たりの搭乗員数を推定している。しかし、実際にはこれを超える数値になるはずである。また、右の数値による公団の推定によつても、昭和四四年当時の一機当たりの旅客乗員の推定数は六一・五であり、利用率は四一パーセントないし四七・三パーセントというものであつて、空席を覚悟の上で市場占有率の確保のために発着させている飛行便数をも基礎資料に入れていることは不当である。

日本航空株式会社(以下「日本航空」という。)は、昭和四一年六月にB―747三機の購入仮契約を締結し、同年九月には正式契約を締結しており、また、昭和四五年三月にはパン・アメリカン航空のB―747が羽田空港に就航し、同年七月には日本航空も同型機を就航させているとおり、超大型機が短期間で主流を占める事態は、昭和四〇年代前半には十分に予測し得たものであり、被告大臣らの同空港における飛行機の発着回数の予測は誤つたものであつた。

<2> 国際線と国内線との需要調整による処理能力の改善

羽田空港の乗降客数のうち国際線乗客の占める割合は、別表三のとおり、昭和四一年の三八パーセントを最高として、その他の年はいずれも三〇パーセント前後であり、また、国際線と国内線との発着回数の比率は、別表四のとおり、およそ一対二の割合であるように、国際線の発着回数は全体の三分の一以下に過ぎない。

したがつて、仮に現状において羽田空港への国際線の新規乗入れを制限している状況にあるとしても、全体の発着回数の約三分の二を占める国内線の需要の調整によつて、国際線の需要を十分に補填できるものであり、この点は、本件第一期事業認定当時において、予測し得ることであつた。

<3> 羽田空港の拡張を怠つた結果の緊急性

ア 羽田空港が、本件第一期事業認定当時、必ずしも過密でなかつたことは右<1>及び<2>のとおりであるが、仮に過密であるとしても、同空港自体として空港需要の伸びに対し適切な措置がとられていながら、なお過密になつたということが、緊急性の要件であると解すべきであり、故意又は過失により適切な措置をとらず、又は過密を促進する方策を講じたという場合には、緊急性の要件を満たし得ないものというべきである。

イ 昭和三八年、運輸省では航空需要予測を行い、羽田空港の処理能力の限界及びその時期について言及し、処理能力の限界に達する時期は昭和四四年ないし昭和四五年と結論づけた。その際、新空港を建設する代わりに羽田空港を沖合に拡張する案が出されたが、同案は、(i)既存船舶航路への支障及び東京港港湾計画との抵触、(ii)技術上の問題、(iii)気象条件、(iv)処理能力向上の効率が悪いこと、を理由に採用されなかつた。

しかし、(i)の理由については、仮に船舶の航路に支障を及ぼしたり、東京湾の港湾計画を根本的に変更しなければならないとしても、他に代替的な航路、港湾計画が合理的に設定できるか否かを問題にすべきである。他方、新空港を建設する場合、国道二九六号線等の路線を変更しなければならなかつたものであり、周辺の都市計画等についても当然に根本的な変更を受け、成田市天神峰、東峰地区においては、昭和四一年前半まで農林省(当時。現在は農林水産省)の指導の下に大々的に推進されてきたシルクコンビナート計画が現実に進行している段階で、新空港の位置を定める政令が施行されたことに鑑みると、既存の航路、港湾計画が存在し、それへの影響があるということだけでは、羽田空港拡張ないし沖合への移転による同空港拡張案を否定する理由にはならないというべきである。

(ii)の理由については、古くは江戸時代のお台場に始まり、明治時代の東京湾海堡、横浜・川崎両市沖に埋め立て造成された扇島、神戸のポートアイランド、長崎空港、大分空港、関西新空港の各例を見れば、建設技術上の問題を持ち出すことが失当であることは明らかである。

(iii)の理由については、羽田空港におけるスモツグの発生がその一つに挙げられているが、新空港では霧が発生して着陸できず、羽田空港へ回航する日が年間数一〇日に達しているのが現状であり、また、周辺地域に展開する落下生畑から舞い上がる赤土の微細な土粒は赤風となつて視界を妨げ、飛行機のエンジンに悪影響をもたらしていることからしても、羽田空港と新空港との気象条件についての比較検討においては、むしろ羽田空港の方が優れているというべきであり、右理由も失当である。

(iv)の理由については、羽田空港の処理能力の効率を考えるに当たつて、騒音問題等を避けるため、例えば東側滑走路については西側に旋回させないような、西側滑走路については東側に旋回させないような出発侵入経路をそれぞれ設定しなければならないという対応策を前提にしているから、誤つた結論に陥るのであつて、各滑走路を風向きに応じて着陸専用又は離陸専用として使い分け、騒音問題を解決するように動的に使用することが十分可能である。実際に、航空局が昭和四七年三月に作成した「東京国際空港拡張計画報告書」において、離陸、着陸時の使用滑走路に関し、基本パターンとして、北風時には離陸滑走路としてD滑走路を、着陸滑走路としてC滑走路を使用し、南風時には、離陸滑走路としてD滑走路を、着陸滑走路としてB滑走路を使用する運用形態が考えられている。

ウ 羽田空港拡張案はその後も度々提案されている。

(ア) まず、昭和四二年五月、日本航空機長会は、B滑走路(当時一五七〇メートル)を一五〇〇メートル延長することを骨子とする羽田空港拡張計画を発表した。

(イ) 同年一二月一九日、運輸省は、A滑走路をつぶして駐機スポツトとし、C滑走路の外側を埋め立てて三〇〇〇メートルの新A滑走路を建設し、併せてターミナルビルの整備を行うという計画を立てたが、大蔵省との折衝の結果、A滑走路を事実上つぶして駐機スポツト三五バースを増設し、B滑走路を二五〇〇メートルに延長するという拡張計画が実施された。

しかし、これにより、A滑走路が臨時的にしか使用できなくなり、羽田空港の処理能力をかえつて低下させる結果になつた。なお、右の計画を立て得たということは、昭和四二年当時、運輸省において、同空港の東側を埋め立てて拡張することが可能であること及びその埋立てにつき東京港の港湾計画との調整が可能であること並びに気象条件にも問題がなかつたことを自認していたことを示すものということができる。

(ウ) 昭和四五年一〇月二日、航空政策研究会は、東京湾埋立てにより、総面積で当時の羽田空港の五倍の広さに当たる一九〇五ヘクタールに拡張し、滑走路は三〇〇〇メートル級四本、二五〇〇メートル級二本とする拡張案を提案した。

(エ) 昭和五三年二月一日、東京都は、羽田空港の沖合移転計画を運輸省に提出し、同省との間で交渉がもたれた。右計画は、同空港の東側隣接地において昭和四七年から開始されていた浚渫埋立工事の大部分が終了していたことが前提となつていた。そして、同省は、昭和五三年五月二三日、同空港拡張計画を立案した。右計画は、同空港東側浚渫埋立地約四七〇ヘクタールに新設の三〇〇〇メートル滑走路を設置し、同空港の発着回数を二四万回にするという方針のものであつた。

エ 右ウのように、羽田空港拡張案は、本件第一期事業認定時までに度々提案、公表されており、運輸省は、これらの案により、同空港の拡張を実施できたにもかかわらず、本件第一期事業認定当時までそれを具体化せず、逆に同空港のA滑走路の使用を中止し、故意にその処理能力を低下させ、発着回数の制限等を行わざるを得なくしたのである。

<4> 空港整備、管制方式の技術改善を怠つた結果の緊急性

羽田空港において発着回数等の制限を行うに至つたのは、第一に、その物理的処理能力の限界というよりも、システムとしての機能を考慮に入れずにスポツトを設定したため、スポツト数の不足及びスポット占有時間(ステイ・タイム)の長時間化をもたらしたこと、第二に、管制方式を旧来のままとし、エリア・ナビゲーシヨンシステム、ARTSIIIシステム等の採用による管制方式の技術改善を怠つたことに起因するものである。

<5> 以上のとおり、羽田空港における発着回数の制限が行われる等の処理能力の限界事態は、運輸省の航空行政の杜撰さや体系性欠如が原因となつて、同空港拡張計画等が不当にも実行されなかつた結果惹起されたものであり、同空港の過密は国が自ら招いた危難というべきであつて、このような事情の下での新空港建設の緊急性は作られた緊急性に過ぎず、到底、特措法七条四号の要件を満たすものとはいえない。

(3) 航空燃料輸送問題からみた緊急性の不存在

請求原因3の(四)の(2)の<1>のとおり、本件第一期事業認定当時には、航空燃料の輸送を確保する見通しが立つていない段階であつたから、本件第一期事業を緊急に施行する必要性はなかつた。

(4) 新空港への交通手段の確保からみた緊急性の不存在

空港を建設するに当たつては、空港への交通手段の確保が重要である。本件事業の収用事業認定申請書及び本件第一期事業の特公事業認定申請書の各事業計画書によれば、昭和五一年度の一日の乗降客数、送迎者数、見学者数は、それぞれ一万五〇〇〇人、二万二五〇〇人、七五〇〇人とされ、一日で四万五〇〇〇人が新空港に出入りするものと予測されていたが、交通手段の確保については、高速道路により一時間以内の連絡が可能であるという漠然とした表現に止どまつていた。また、最も期待されていた成田新幹線については、整備計画が決定されたのが昭和四六年であり、工事実施計画の認可があつたのが昭和四七年二月であり、右認可と同時に着工された建設工事は、沿線住民の反対運動等により、二か月で中止となり、以後全く進展していない。

このように、本件第一期事業認定当時には、いまだ新空港と近接都市、特に東京との間の交通手段の確保の見通しが立つていなかつたのであり、したがつて、この段階では、本件第一期事業を緊急に施行する必要性はなかつた。

(5) 航空機騒音対策からみた緊急性の不存在

新空港の騒音問題の対策については、昭和五一年一〇月の段階でも、千葉県知事において燃料輸送以外の解決すべき課題としてアクセスと騒音対策の二点を取り上げ、政府との折衝の必要性を明言したり、昭和五二年六月には、騒音対策に不満のある住民らが公団の民家防音工事説明会に欠席する方法でその意思を表明していたり、同年七月二一日の同県議会本会議で、同県知事が「空港への輸送手段(アクセス)確保と騒音対策としての空港周辺土地利用法の制定は、開港までに是非ともやつてもらわねばならない。この二つの問題が解決しなければ、開港を延ばしてもらう決意だ。」と述べていたり、同年八月九日に、同県知事と運輸大臣のトツプ会談が持たれ、同知事は騒音対策等をつよく国に迫つたという状況であつた。そして、昭和五三年の開港直前になつてようやく、騒音問題の地元対策が一応できたのである。

このように、本件第一期事業認定当時、新空港の航空機騒音問題について地元対策ができるとの見通しは全くなかつたのであり、この点においても、本件第一期事業を緊急に施行する必要性はなかつた。

(6) 空域確保の観点からみた緊急性の不存在

航空機の安全な航行と離発着とを確保するためには、空域を十分に設定する必要がある。新空港は、いわゆる空域分離方式による管制システムが採用されることになつていたが、同空港の位置する関東地方上空には、百里空域、羽田空域、横田空域が既に設定されており、ここに同空港を建設する場合には、右各空域の中に成田空域を設定することになり、既存の各空域相互間の調整、分離は必然的課題であつた。そして、自衛隊の百里飛行場のための空域である百里空域では、ジエツト戦闘機が緊急発進を数回以上行つており、成田空域を飛行する航空機との接触が高度に予測され、右空域間の調整はまず第一に行われるべきであつた。しかし、本件第一期事業認定当時はもとより、昭和五一年の時点においても、百里空域との関係で空域の調整、分離が実現していなかつたのであり、この点からも、本件第一期事業を緊急に施行する必要性はなかつた。

(7) 空港保安施設用地の未取得による緊急性の不存在

請求原因3の(四)の(2)の<2>のとおり、本件第一期事業認定当時、航空保安施設用地の確保の目途がついていなかつたから、この段階では、本件第一期事業を緊急に施行する必要性はなかつた。

(一〇) 特公事業認定における手続上の違法の承継

収用事業認定を受けている事業について特公事業の認定をする場合に特措法三九条一項が適用されるのは、収用法による認定を受けた事業と特公事業認定を受けた事業とが同一の場合に限られるものであり、同項は、右事業認定の際に採られる手続の重複を避けるため規定されたものである。

本件第一期事業は、前記(三)のとおり、本件事業の一部に過ぎず、本件事業と同一ではないから、特措法三九条一項の適用がないものである。しかるに、被告大臣は、同項の規定により、同法八条の規定(収用法二一条ないし二五条の準用規定)を適用せず、右各準用規定に定める手続を経ないで本件第一期事業認定をしたものであるが、右手続の省略により、関係権利者は、その所有又は使用権限を有する土地が緊急裁決の行われ得る特公事業の起業地に入るのかどうかを知ることができず、緊急裁決の申立てがあつた旨の通知を受けた段階になつても、なおそれにつき確認のしようがない状態に置かれ、自らの権利を防御する機会を奪われたものであるから、この手続の省略は、憲法三一条に違反するものというべきであり、右手続を経ないでされた本件第一期事業認定は違法である。したがつて、本件第一期事業認定を受けて行われた本件緊急裁決もまた違法である。

4  本件裁決の違法

(一) 審理不尽の違法

(1) よね及び同人の代理人らは、昭和四六年七月一三日に本件審査請求を申し立てた当時から、被告大臣に対し、行服法二五条一項ただし書に基づき、口頭で意見を述べる機会の付与の申立てをしていた。そして、本件審査請求の後七年ぶりに審理が開始されて以降、口頭意見陳述の権利を有効に生かすため、よねの地位を承継した原告ら(以下、本件裁決の審理に関しては「審査請求人」ともいう。)は、まず、昭和五四年七月一二日、被告大臣に対し、審査請求人が提出した、審査請求補充書及び被告委員会の弁明書に対する反論書を、被告委員会に送付し、かつ、被告委員会においてそれに対する弁明及び再反論があるならその提出を求め、これにより争点が明らかになつた後に口頭意見陳述の機会を付与されたい旨申し入れ、同年七月一九日、意見陳述に備え、本件緊急裁決の理由となつた事実を証する書類その他の物件(以下「裁決資料等」という。)の閲覧を求めた。被告大臣は、一方的に、口頭意見陳述の期日指定をし、これに対し、審査請求人代理人は、期日変更を申請し、さらに、原告らは、右審査請求補充書に対する被告委員会の弁明書及び右反論書に対する被告委員会の再反論が得られない場合には、口頭意見陳述の前に裁決資料等の閲覧が不可欠と考え、改めて被告大臣に対し、裁決資料等の閲覧を求め、同年九月五日にも、同代理人(三名)から閲覧希望期日として同月二九日及び同年一〇月二日を提示したうえで裁決資料等の閲覧を求めた。ところが、被告大臣は、一方的に裁決資料等の閲覧を同年九月二八日までの期間中とし、口頭意見陳述の期日として同月二九日を指定した。同代理人は、可能な限り努力し、同月二七日に二名の代理人が裁決資料等の閲覧をしたが、とても一日で閲覧し終える量ではなかつた。残りの一名の代理人は、結局同月二八日までの間に閲覧することができなかつた。その上、審査請求人小泉美代は、同月一九日、第三子を出産し、それによりに、審査請求人小泉英政も、出産直後の妻子の世話に忙殺され、同月二九日にはとても口頭意見陳述することができない状態であつたので、その旨を事前に申し入れていた。そして、審査請求人及び同代理人は、同日は口頭意見陳述することができず、同代理人が裁決資料等の閲覧をしたに過ぎなかつた。同代理人は、同年一〇月一日、被告大臣に対し、口頭意見陳述の期日を同年一一月九日とするよう求め、同年一〇月二日、裁決資料等の閲覧をすませた。しかるに、被告大臣は、その後、審査請求人に口頭意見陳述の機会を全く与えず、その後も審査請求人から再三再四にわたる口頭意見陳述の機会付与の求めがあつたにもかかわらず、これを容れず、本件裁決をした。

(2) 行服法二二条一項は、審査庁が審査請求人から処分庁の弁明書副本の送付を請求された場合には、審査庁において処分庁に対し弁明書の提出を求めるべき義務を課したものであると解すべきである。原告ら(審査請求人)は、昭和四六年一二月一三日及び昭和五三年一二月二〇日に提出した審査請求補充書に対する被告委員会の弁明書副本の送付を受けたが、昭和五四年五月二九日及び同年七月一二日に提出した審査請求補充書に対しては、被告委員会の弁明書副本の送付がなかつたので、被告大臣に対し、右申立理由に対する被告委員会の弁明書副本の送付を要求した。しかるに、右請求は容れられず、本件裁決が出された。

(3) 本件審査請求の審査において、被告大臣は、原告ら(審査請求人)代理人からの行服法三三条二項に基づく裁決資料等の全部の閲覧請求に対し、右資料等として被告委員会が開催した本件緊急裁決の審理の速記録及び写真を閲覧させたに過ぎなかつたから、右の書類等が被告委員会から提出された裁決資料等の全部であると考えられるが、右の書類等だけでは本件裁決の判断資料として不十分である。

(4) 以上のとおり、被告大臣は、審査請求人である原告らに対し、口頭意見陳述の機会を与えず、被告委員会から弁明書の提出をさせないまま本件裁決をしたものであり、また、十分な資料によらないで判断したというべきであるから、本件裁決には審理不尽の違法がある。

(二) 理由附記の不備の違法

行服法四一条一項は、審査請求に対する裁決は理由を附さなければならないと規定しているが、右の理由附記の程度は、裁決主文に至る論理的な判断過程を記載することが要求されているものであり、審査請求人が審査庁の判断の根拠を理解できる程度に具体的でなければならないものである。

本件裁決における理由は、原告らの審査請求の理由に対し、一応網羅的に応答しているが、個々の審査請求の理由についてみると、結論に至るまでの判断過程の記載がなく、結論しか記載されていないものである。したがつて、本件裁決には理由附記の不備の違法がある。

5  以上のとおり、本件緊急裁決及び本件裁決は、違法であつて、取消しを免れないものであるから、請求の趣旨記載の範囲で本件緊急裁決及び本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1  請求原因1の(一)ないし(三)の事実は認める。

2  同2について

(一)及び(二)の事実は認める。ただし、本件審査請求は、本件緊急裁決に係る一二筆の土地のうち、本件両土地を含む九筆の土地について行われたものである。

3  同3について

(一) (一)の(1)、(2)は争う。

同(3)は、仮補償金は、その額が概算見積り額であつて、後に清算手続が予定されているものであり、その額の当否について直ちに不服申立てをすることができないものであること、収用法の補償金は、確定金額であつて、後に清算手続がなく、その額の当否について直ちに不服申立てができるものであること、本件緊急裁決は昭和四六年六月一二日に仮補償金を定めて行われたこと、右仮補償金に関して昭和五五年一一月の時点においても未だ補償裁決がされていないことは認めるが、その余は争う。

(二) (二)は、本件両土地及び二四番地が第一期工事区域の中に存在していたこと、右三筆の土地のうち本件緊急裁決の対象となつたのは本件両土地のみであることは認め、その余は争う。

(三) (三)の(1)の事実は認める。同(2)は争う。

(四) (四)の(1)は争う。

同(2)の冒頭部分は争い、<1>は、新空港における航空燃料の確保について、原告ら主張の内容のパイプラインにより輸送して確保するという計画であつたこと、右パイプラインの敷設につき、昭和四六年八月に埋設ルートが発表になり、同年一二月二三日、新空港内で工事が着工されたこと、昭和五二年九月、暫定的に鉄道貨車輸送による方法で航空燃料を輸送することにつき公団と関係市町村との間に合意が成立したことは認め、その余は争い、<2>は、第一段、第三段の事実は認め、その余は争い、<3>は、第一段のうち本件両土地及び二四番地がいずれも新空港の構内道路予定地であつたこと並びに第二段の事実は認め、その余は争う。

(五) (五)の(1)は争う。

同(2)は、本件事業が昭和四四年一二月一六日に収用事業認定の告示がされたものであること、第一次申請に対する収用裁決が昭和四五年一二月一六日に出されていたこと、その当時、本件両土地について収用裁決申請(本件一二番地は第二次申請、本件一八番地は第三次申請)が行われていたことは認め、その余は争う。

同(3)は争う。

(六) (六)の(1)の事実は認める。

同(2)は、よねの本件一八番地に対する権利が使用借権であること、補償基準要綱一二条において使用貸借による権利に対する補償の算定方法についての定めがあること、公団が昭和四一年九月二九日に公団補償規程を定めたことは認め、その余は争う。

同(3)は、本件一八番地に対する仮補償金が現在も供託されたままであることは認め、その余は争う。

(七) (七)は、よねが本件一八番地に住居を有していたことは認め、その余は争う。よねは特措法二三条一項による仮住居の提供による補償の要求をしていなかつた。

(八) (八)の冒頭部分は争う。

同(1)は、公団が提出した本件緊急裁決の申立書には、緊急裁決申立ての理由が記載されていなかつたことは認め、その余は争う。

同(2)は、公団が本件緊急裁決の申立てを行つた際、本件一二番地の物件調書を提出しなかつたことは認め、その余は争う。

同(3)は、被告委員会が本件緊急裁決の申立てがあつた昭和四六年二月三日から二か月を超えた同年六月一二日に本件緊急裁決を行つたことは認め、その余は争う。

同(4)の冒頭部分は争い、<1>は、被告委員会が使用契約者等を関係人と認めないで、この者の審理への参加を拒否したことは認め、その余は争い、<2>は、被告委員会が関係権利者に対して昭和四六年二月二二日付け「審理の開催について」と題する書面を送付して、審理期日を同年三月一〇日、同月二三日及び同月二四日と指定した旨を通知したこと、同月一〇日の期日が後に取り消されたこと、同月二三日、同月二四日、同年四月二七日及び同月三〇日に審理期日が開催され、審理が実施されたことは認め、その間の経過状況が原告ら主張のようなものであつたことは争い、<3>ないし<5>は争う(本件緊急裁決の審理経過は、被告らの主張2の(二)のとおりである。)。

(九) (九)の(1)は、本件第一期事業が昭和四五年一二月に特公事業認定を受けたこと、新空港が昭和五三年五月に開港されたことは認め、その余は争う。

同(2)の<1>、<2>は争い、<3>は、イの第一段、ウのうち(ア)の全部、(イ)の第一段、(ウ)及び(エ)の全部の事実は認め、その余は争い、<4>、<5>は争う。

同(3)は争う(ただし、請求原因3の(四)の(2)の<1>に対する認否は前記3の(四)のとおりである。)。

同(4)の第一段の事実は、本件事業の収用事業認定申請書及び本件第一期事業の特公事業認定申請書における新空港への交通手段についての記述が漠然とした表現のものであつたこと並びに成田新幹線の建設工事が二か月で中止になつたことを除き認め、第二段は争う。

同(5)は争う。

同(6)は、航空機の安全な航行と離発着とを確保するためには、空域を十分設定する必要があること、新空港は空域分離方式による管制システムが採用されることになつていたこと、同空港が位置する関東地方の上空には百里空域、羽田空域、横田空域が既に設定されていたこと、新空港を建設する場合には、右各空域の中に成田空域を設定することになることは認め、その余は争う。

同(7)は争う(ただし、請求原因3の(四)の(2)の<2>に対する認否は前記3の(四)のとおりである。)。

(一〇) (一〇)は、特措法三九条一項の規定が収用事業認定を受けている事業につき特公事業認定を行うに際し採られる手続の重複をさけるために定められたものであること、被告大臣が特公事業として本件第一期事業認定を行うに当たり、同項の規定により、同法八条の規定を適用しなかつたことは認め、その余は争う。

4  同4について

(一) (一)の(1)のうち、被告大臣が原告らに対し口頭意見陳述の機会を与えなかつたことは否認する(本件裁決の審理経過は、被告らの主張2の(三)の通りである。)。

同(2)は、原告らの行服法二二条一項の解釈は争い、その余の事実は認める。

同(3)は、被告大臣が原告ら(代理人)に対し、被告委員会から提出された本件緊急裁決の審理の速記録及び写真を閲覧させたことは認め、その余は争う。

同(4)は争う。

(二) (二)は、本件裁決の理由が原告らの審査請求の理由に対し網羅的に応答しているものであることは認め、個々の審査請求の理由については結論しか記載されていないことは否認し、その余は争う。

5  同5は争う。

三  被告らの主張

1  新空港建設の必要性

(一) 航空輸送量の増加

昭和三〇年代から、世界の航空輸送量は、経済の成長、国際的交流の進展、航空機材の技術革新等を背景に、目覚ましい増大を示し、昭和三二年から昭和四二年までの世界の国際航空輸送量は、年平均一五・四パーセント(旅客一四・五パーセント、貨物・郵便物一八・六パーセント)の伸び率を示している。

一方、我が国の国際航空輸送量(旅客、貨物・郵便物)も世界の国際航空輸送量の伸び以上の伸びをみせており、昭和四二年度におけるそれは四億七八〇〇万トンキロで昭和三二年度の約一五倍であり、同年から昭和四二年までの年平均伸び率は三一・五パーセント(旅客三一・四パーセント、貨物・郵便物三四・一パーセント)である。これに伴い、羽田空港における国際線定期便発着回数も増加しており、昭和四二年度の国際線定期便発着回数は二万六五九〇回で、昭和三二年度の約三・六倍となつている。そこで、昭和四二年の時点において、以上の推移を踏まえて、経済の成長度、国際情勢の変化その他の航空輸送需要を支配する一般的要因はもとより、技術革新に伴う航空機材の大型化と高速化による航空輸送の変革並びに新規路線の開設、就航便数の増加、運賃の低下等を内容とする航空会社のサービスの向上といつた質的変化等考慮可能な要因をできる限り考慮して、東京地区における国際線定期便の将来における旅客数、貨物(郵便物を含む。)取扱量、発着回数を推定した結果、昭和五一年度の乗降旅客数は五四〇万人(昭和四一年度の四・二倍)、貨物取扱量は四一万トン(同八・二倍)、発着回数は六万七〇〇〇回(同三・二倍)、昭和六一年度の乗降客数は一六〇〇万人(同一二・三倍)、貨物取扱量は一四〇万トン(同二八倍)、発着回数は一八・一万回(同八・六倍)とそれぞれ推定された。

(二) 航空機の超大型化、超高速化

一方、航空輸送は質的にも急激な発達をみせ、昭和四二年当時、世界の航空界は既にジエツト革命を経験しており、さらに、航空機材の大型化、高速化が進展し、昭和四四年当時、我が国の国際線には、昭和四五年にジヤンボ・ジエツト(B―747)、昭和四七、八年にエアバス及びSST(超音速旅客機)の一つであるコンコードの就航が予定されており、超大型航空機及び超高速航空機による大量輸送、高速輸送の時代が目前に迫つていた。

(三) 羽田空港の能力

ところで、右の航空輸送量の増加及び航空機の超大型化、超高速化を受け入れなければならない羽田空港の能力は、以下のとおり、その発着処理能力及び滑走路の長さからして、到底これを受け入れるだけの能力を有していなかつた。

(1) 発着処理能力

<1> 羽田空港の発着処理能力は、A滑走路、B滑走路、C滑走路の三本の滑走路を完全に使用した場合でも、年間一七万五〇〇〇回が限度である。同空港においては、駐機場が不足していたため、本件第一期事業認定当時からすでにA滑走路(三〇〇〇メートル)の一部を駐機場として使用していたので、同滑走路の使用可能滑走路の長さは一三〇〇メートルに過ぎず、プロペラ機の離陸のみに使用されていた。そのうえ、B滑走路(一五七〇メートル)は滑走路の長さが短いため、ジエツト機の滑走路として使用することができず、かつ、昭和四四年当時、ILS(計器着陸用施設)の設備がなかつたため、天候により発着に相当の制約があつた。そのため、当時ジエツト機の滑走路としてはC滑走路(三一五〇メートル)のみが使用されており、同空港の発着処理能力は年間一三万八〇〇〇回と見込まれていた。

<2> また、一般に航空機が着陸するには、風に向かつて着陸するという大原則がある。ところで、羽田空港では、南側から進入して着陸する航空機が多いが、これらの航空機は南風の場合、北に回り込んで(いわゆる周回進入をしてから)着陸しなければならず、そうすると周回進入の途中で同空港から南向きに出発して上昇してくる航空機と同じ高度で交差するおそれがあつた。そこで、安全対策上、右のような事態が生ずるのを避けるためには、離着陸の間隔を予定より少し延ばすこととなるから、南風の場合には、同空港ではダイヤが遅れ、前述の発着処理能力よりもさらに能力が落ちることになる。このような事態は、南風の吹く日が多い夏場に多く発生した。

<3> このように、昭和四四年当時の羽田空港の発着処理能力は、年間一三万八〇〇〇回程度であり、たとえ将来においてA、B、Cの三本の滑走路を完全に使用することができた場合でも、年間一七万五〇〇〇回の発着処理能力しか確保し得ない見込みであつた。そして、本件第一期事業認定以前の需要予測によれば、同空港の発着処理能力を年間一七万五〇〇〇回とみれば、昭和四五年ころまでに限界に達すると推定されていた。

<4> ところが、本件第一期事業認定当時の実際の羽田空港における発着回数をみると、昭和四四年度は約一五万二〇〇〇回、昭和四五年度は約一六万四〇〇〇回であり、前述の発着処理能力に照らせば、既に昭和四四年度において、同空港の発着処理能力はその限界に達しており、その頃から同空港においては着陸の上空待機、発進の遅延等の現象が現れていた。

<5> 昭和四五年になると羽田空港の処理能力を超える発着回数がさらに増加して、遅延現象が著しくなり、夏場等は着陸に平均して一〇分から一五分くらいの遅れが出て、出発便が一時間程度遅れるようなことがあつた。遅れがでると、到着便をできるだけ先に降ろすことが要請されるため、出発便はかなり遅れることになる。そのため、運輸省航空局は、同年八月二一日、このような同空港の混雑を緩和するために、各航空会社に対し、緊急指示を発したが、その内容は、(i)同空港における発着回数は一日四六〇回を限度とする、(ii)国内定期便を一日一二便ないし一四便ほど減便する、(iii)厚木飛行場を許容される限り使用する、(iv)臨時便及びチヤーター便の制限、(v)大阪、札幌、福岡発東京行き定期便について、フローコントロールを行う、(vi)羽田空港が混雑しているときは、名古屋空港に一時着陸して、地上待機する、という非常に厳しい内容のものであつた。そして、このような厳しい羽田空港の状況は、その当時、昭和四六年度以降さらに厳しさを増すことが確実視されていた。

(2) 滑走路の長さ

羽田空港は、三本の滑走路を有していたが、このうち最も長いのはC滑走路の三一五〇メートルである。ところが、昭和四四年当時既に国際線において使用され、又は同年以後において国際線で使用することが予定されていたDC―8、B―747、コンコード等の機種が夏場の高温時に最大離陸重量において必要とする滑走路長は三二九〇メートルないし三八一〇メートルであり、C滑走路でもこれに対応することができない状態であつた。そこで、新空港開港以前の羽田空港においては、温度によつて航空機の重量制限をし、各航空会社は、燃料搭載量を減らしたり、貨物の積載量を減らす等の措置を講じて、規定の枠内で発着していた。

(3) 各国主要国際空港との比較

羽田空港は、三〇〇〇メートル程度の主滑走路を有する敷地面積三五〇ヘクタールの国際空港であるが、各国の主要国際空港と比べると、滑走路の長さ、滑走路の数、敷地面積からして、本件第一期事業認定当時以前から既に最小の規模といわざるを得なかつた。

(四) 以上のように、航空輸送需要の急激な増加と航空機の超大型化、超高速化は必至の状況にあつたのであるが、東京地区においては、羽田空港の能力からして、到底前記のような航空運輸情勢の変化に対応することはできない状況にあつた。したがつて、東京地区における航空輸送需要の急激な増加に対応し、かつ、将来国際線に就航する新機種を受け入れるためには、新たに国際空港を首都東京の周辺に建設することが必要不可欠であつた。そして、もし新空港が建設されなければ、首都東京の政治的、経済的活動に重大な支障を来すのみならず、我が国の国際的な地位、信用にも悪影響を及ぼすこととなるおそれがあつた。

2  本件緊急裁決及び本件裁決の事実経過

(一) 本件緊急裁決申立てに至るまでの経緯

(1) 新空港工事施計画の認可

<1> 前記1の状況に対応するため、昭和三〇年代ころから、政府を始め航空関係者の間で、東京地区において新たに国際空港を建設することの必要性が強く認識されるに至つた。

<2> 政府は、昭和三七年度予算から新空港調査費を計上し、運輸省は、新空港の候補地として、千葉県浦安沖、同県富里村付近、茨城県霞ケ浦等の首都圏地域及び東海、近畿地方など約二〇か所について調査、検討を重ねた。

また、運輸大臣は、昭和三八年八月、航空審議会に対して「新東京国際空港の候補地及びその規模」について諮問し、同審議会は、航空管制、気象条件、工事上の問題、都心との連絡などの立地条件を検討した結果、同年一二月、千葉県富里村付近が候補地として最も適当である旨答申し、併せて、新空港の建設及び管理は、公団方式を採ることが最も適当である旨の建議を行つた。

<3> 新空港の候補地については、その後も政府部内において検討が続けられ、最終的に、(i)国有地である下総御料牧場及び県有地を最大限に活用すること、(ii)買収民有地をできるだけ小範囲にとどめること、(iii)気象条件及び工事上の条件が整つていること、などの観点から、昭和四一年七月四日の閣議において、新空港の建設位置は千葉県成田市三里塚町を中心とする地区とすること及び新空港の敷地面積は一〇六〇ヘクタール程度とすることを決定し、併せて、「位置決定に伴う地元対策」を決定した。

<4> 政府は、新空港の建設予定地の決定に先立ち、新空港の建設管理につき、航空審議会の建議を受けて、公団方式を採用することとし、昭和四〇年六月一日、新東京国際空港公団法を制定し、昭和四一年七月三〇日、公団が設立された。

<5> 運輸大臣は、昭和四一年一二月一二日、公団に対し、新空港の基本計画を指示し、滑走路及び着陸帯が備えるべき条件、空港敷地の面積、航空保安施設の種類、工事完成の予定期限並びに空港の運用時間についての基本方針を明らかにした。右基本計画の指示によると、工事完成の予定期限について、おおむね昭和四五年度末までに、おおむね四〇〇〇メートルの長さの滑走路及びこれに対応する諸施設の完成を予定しつつ、その他必要な事業と併せて実施するものとし、全工事の完成は昭和四八年度末を目途とする、とされている。

<6> 公団は、この基本計画に従い、概要別紙三のとおりの工事実施計画を作成し、同月一三日、運輸大臣に対し、航空法五五条の三第一項の規定に基づき、新空港の工事実施計画の認可を申請し、同大臣は、昭和四二年一月二三日、右申請を認可した。この工事実施計画によると、工事着手の予定期日は工事実施計画が認可された日、完成の予定期日は、(i)滑走路A(長さ四〇〇〇メートル)及びこれに対応する諸施設は昭和四六年三月三一日、(ii)右以外の諸施設は昭和四九年三月三一日、とされていた。この工事実施計画に基づいて、昭和四六年四月に供用開始される予定の工事区域(第一期工事区域)に建設される諸施設(第一期施設)の概要は、別紙四のとおりである。

なお、その後の昭和四四年一月二五日、国際線貨客の処理能力の増大を図るとともに、段階的建設に適するようターミナルの形式を変更するため、誘導路とエプロンについて、工事実施計画の変更の認可がされた。

(2) 本件事業の収用事業認定

<1> 公団は、新空港用地約一〇六五ヘクタールのうち、買収を必要とする民有地約六七〇ヘクタールを取得するため、買収交渉を開始した。その結果、ようやく昭和四三年四月に至り、土地所有者の大多数で組織されている成田空港対策部落協議会、成田空港対策地権者会、多古町一鍬田空港対策委員会及び芝山町空港対策連絡会議地権者会の四団体との間で、土地価格について、反当たり、畑は一四〇万円、山林・原野は一一五万円、田は一五三万円、宅地は二〇〇万円とし、その地代替地の配分、離職者の転職斡旋などについて覚書を調印するに至つた。以来、右覚書で決定された条件により買収交渉に当たつた結果、昭和四五年三月の時点では、民有地の約八割の任意買収が終わつた。

<2> ところで、新空港の位置が内定した直後から、新空港に反対する人々が反対同盟を結成し、空港建設反対運動を組織的に展開するに及び、公団職員が反対同盟に属する土地所有者と買収交渉することは全く不可能な情勢に立ち至つた。また、反対同盟は、空港建設反対運動の一環として、新空港の位置決定の直後である昭和四一年八月から同年一二月の間に、一筆の土地について多数の者の共有とする登記を行つたり(いわゆる一坪運動共有地である。)、一筆の土地上の立木についてそれぞれ一本ずつを別個に所有させるという一木運動や反対運動の拠点とするための団結小屋の建設等、空港建設を阻止するための運動を行つた。公団は、これらの土地の所有者に対して買収の申込みをしたが、買収できる見込みがなかつた。

<3> 公団は、右のように、反対同盟による組織的な新空港建設反対の妨害行為に遭い、新空港用地の任意買収による取得が困難であることが明らかとなつたため、昭和四四年九月一三日、被告大臣に対し、本件事業について、収用法一六条及び一八条の規定に基づき、収用事業の認定の申請をした。

そして、公団は、昭和四四年九月一九日に第一期工事区域における工事用道路の工事に着工し、次いで、同月二〇日に滑走路、昭和四五年七月八日にエプロン、同年八月四日に誘導路、というようにそれぞれ工事に着手した。

<4> 被告大臣は、公団から提出された本件事業の収用事業認定申請について、申請書が収用法一八条所定の方式を備えているか否か及び右申請に係る事業が同法二〇条所定の事業認定の要件を満たしているか否かについて審査し、昭和四四年一〇月一三日、申請に係る本件事業が右要件について該当しないことが明らかである場合には当たらないとして、同法二四条の規定に基づき、成田市長、芝山町長、多古町長、大栄町長及び千葉県知事宛に、右事業認定申請書及び添付書類の写しを送付し、右の市町長は、同条二項所定の公告をし、右事業認定申請書等を公衆の縦覧に供した。

そして、被告大臣は、右事業認定申請書及びその添附書類による審査をするにとどまらず、必要に応じて、公団及び運輸省から事情を聴取するとともに、右事業認定申請書及びその添附書類を地元において公衆の縦覧に供した際に提出された意見書(一三四五通)の内容についても十分吟味した上で、本件事業が収用法二〇条各号所定の要件に該当するものと認めて、本件事業の収用事業認定を行い、その旨を公団に通知するとともに、昭和四四年一二月一六日付け官報をもつて告示した。

(3) 本件第一期事業の特公事業認定

<1> 公団は、本件事業に関し、別表一のとおり、収用法三九条一項に基づく収用裁決申請をした。

<2> 被告委員会は、第一次申請につき、収用法四二条一項、四七条の四第一項所定の手続を行い、成田市長は、同法四二条二項所定の公告をし、関係書類を公衆の縦覧に供した。

右縦覧期間中に、七七六人の者から意見書が提出されたが、右意見書提出者のうち六八七人は、公団から収用裁決申請又は申立てのあつた関係権利者の中にみあたらず、また、右意見書には、提出者らが各土地の関係人に該当する旨の表示もなかつた。そこで、被告委員会は、右六八七人に対し、昭和四五年四月二〇日付けをもつて、関係人及び準関係人としての権利について照会を行つたところ、同年五月六日、一三四〇人(延べ一四四九人)から証明文書として「無償貸借契約確認証」が提出された。被告委員会は、縦覧手続の終了を待ち、同年四月一七日、収用法四五条の二の規定により、裁決手続開始を決定し、同月三〇日、千葉地方法務局成田出張所にその旨の登記を嘱託した。

さらに、被告委員会は、同年六月一二日を第一回審理期日と決め、その際、右確認証により関係人として申立てのあつた一三四〇人に対し、これらの者が関係人であるかどうかについて疑義があつたが、一応関係人として審理開催の通知をした後、五回の審理及び一回の現地調査をした上で審議を行い、同年一二月二六日、収用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)を行つた。

公団は、右収用裁決に基づき、昭和四六年二月一日、千葉県知事に対し、同裁決に係る六件六筆の土地全部について代執行の請求をし、同月二二日から同年三月六日までに第一次の代執行が実施された。

<3> 被告委員会は、第二次ないし第四次申請について、それぞれ収用法四二条一項及び四七条の四第一項の手続を行い、成田市長は、逐次、同法四二条二項、四七条の四第二項所定の公告を行い、関係書類を公衆の縦覧に供した。

右縦覧期間中に、第二次申請分について三七九九人、第三次申請分について三三六八人、第四次申請分について一三〇六人から、それぞれ意見書が提出されたが、右意見書提出者のうち、多数の者は、公団から申し立てのあつた第二次ないし第四次申請に係る各土地の関係権利者の中にみあたらない上、当該意見書中には各提出者らが右各土地の関係人に該当する旨の表示もなかつた。

被告委員会は、これらの者に対し、文書をもつて関係人及び準関係人としての権利について照会を行つたところ、延べ一万二一九一人の者が土地についての「無償貸借契約確認証」又は「使用貸借契約確認証」(以下併せて「確認証」という。)を提出して関係人である旨の申立てを行つた。

被告委員会は、第二次申請分について昭和四五年七月二四日、第三次申請分について同年八月四日、第四次申請分について同年九月二五日に、それぞれ、収用法四五条の二の規定により裁決手続開始を決定し、千葉地方法務局成田出張所にその旨の登記を嘱託した。

<4> 公団は、被告委員会に対し、昭和四五年三月三日から同年一二月一五日までに第一次から第六次まで合計一七〇件三九八筆の土地について収用裁決の申請を行つたのであるが、反対同盟に属し、又はこれに同調する者の組織的な妨害活動等のため、同年一二月までに収用裁決があつた土地は、第一次申請に係る六件六筆に過ぎなかつた。

そこで、公団は、本件事業のうち第一期施設に係るものにつき緊急に施行することを要するところから、昭和四五年一〇月一六日、成田市三里塚の御料牧場跡地において、特措法三条一項及び同法施行規則一条一項所定の説明会を開催したうえ、同年一一月四日、被告大臣に対し、特措法四条に基づく本件第一期事業の特公事業認定の申請をした。

<5> 被告大臣は、本件第一期事業の特公事業認定申請書及びその添附書類による審査をするにとどまらず、必要に応じて公団及び運輸省から事情を聴取することにより、特措法七条各号所定の要件に該当するかどうかを検討した上、同条の規定に基づき、昭和四五年一二月二五日、公共用地審議会に付議し、同審議会の特公事業認定を適当と認める旨の議決を経て、本件第一期事業につき特公事業認定を行い、その旨を公団に通知するとともに、同月二八日付け官報をもつて告示した。

<6> 新空港建設工事は、昭和四四年秋から進められてきたが、反対同盟等の一坪運動、団結小屋設置等による妨害のため、昭和四五年一一月の段階で昭和四六年六月と見込まれていた第一期施設の供用開始の期日は、昭和四六年二月の段階では、昭和四七年初頭を目途とせざるを得ない状況となつた。しかし、公団は、右目途に対応すべく、相当広範囲にわたり、新空港敷地造成工事、滑走路及び誘導路の舗装工事、雨水排水施設設置工事、共同溝設置工事、旅客ターミナル新築工事、受変電所新築工事、管理棟新築工事、その他第一期施設の工事を行つていた。

<7> 公団は、本件第一期事業について特公事業認定を受け、同事業を緊急に施行するため、被告委員会に対し、昭和四六年二月三日、第二次申請分全部の土地、第三次申請分のうち本件一八番地を含む六件一七筆の土地、第四次申請分全部の土地、合計一五件三三筆の土地について、本件緊急裁決の申立てを行つた。

(二) 本件緊急裁決手続の経緯

(1) 緊急裁決手続の開始

被告委員会は、特措法の規定に基づき、昭和四六年二月一五日、関係権利者に対し本件緊急裁決の申立てがあつた旨を通知(二〇条三項)するとともに、同日付けで物件所有者に対しては物件の収用請求に関する意見書の提出を、住居居住者に対しては仮住居の要求に関する意見書の提出を、それぞれ求めた(二四条)。そして、被告委員会は、第一回審理期日を同年三月一〇日、第二回審理期日を同月二三日、第三回審理期日を同月二四日と定め、同年二月二二日、審理の開始について千葉県報に公告し、併せて公団及び関係権利者に対し、審理の場所及び日時を通知した(収用法四六条二項)。

なお、確認証により関係人として申立てのあつた使用契約者等については、同法八条三項にいう関係人とは認められなかつたので、被告委員会は、同月一七日付け文書をもつて、使用契約者等に対し、審理手続に参加できない旨通知した。

(2) 被告委員会事務局による現地調査

被告委員会は、同月一〇日、事務局職員による現地調査(一回目)を実施し、本件緊急裁決の申立てに係る土地の区域及び土地上の物件の確認並びに確認証により契約を締結しているとの申立てがあつた分についてその事実の確認に資するための調査と被告委員会が実施しようとする特措法二五条の規定による調査の予備調査とを行つた。

被告委員会事務局職員は、同年三月一二日、二回目の現地調査を実施し、本件緊急裁決の申立てに係る土地の区域、利用状況、土地にある物件の種類及び数量等を調査するとともに、被告委員会による調査のための予備調査を行つた。

(3) 被告委員会による現地調査

被告委員会は、同月一七日、特措法二五条の規定による現地調査を実施し、先に行われた被告委員会事務局の調査を基礎として、収用委員会がこれらの調査結果を確認すると同時に、同条に規定する補償金額を算出するために必要な土地の地勢、現況、近隣の環境、土地の個性的特徴、土地にある建物及び立木の状況等を調査した。

この現地調査に際し、本件緊急裁決に係る土地のうち、成田市木の根字横峰九〇番二の土地において、調査に反対する者らが同土地の前面に放送車を出し、抗議放送を行いつつ、スクラムを組んで調査を妨害し、本件一二番地においても、学生風の者約三〇人が糞尿を投げるなどして調査を阻止したり、さらに、右妨害行為から退避しようとした調査事務職員に襲い掛かり、調査事務職員三名を負傷させ、バスの窓ガラスを破損させるという事態が生じ、その他の土地においても、竹やり、竹ざお及び投石等による妨害行為があつた。

(4) 第一回審理

被告委員会は、同月一〇日に予定していた第一回審理期日につき、第一次申請に対する収用裁決に係る代執行が同月初めにわたつて行われていたので、これを延期するのが妥当と判断し、右同日の審理は開催しないこととし、同月二日、その旨を関係権利者に通知し、同月一〇日、千葉県報に公告した。

第一回審理は、同月二三日、同県総合運動場体育館において開催された。被告委員会は、この審理に当たつては、関係権利者を始め審理出席者が多数であること、県外居住者を多数含むことから会場を県体育館とするとともに、第一次申請にかかる審理において、新空港建設に反対する者らがこれを妨害し、混乱を引き起こす等の事態があつたことに鑑み、あらかじめ入場整理券を交付したうえ、注意事項を記載したチラシを配布し、また会場内外への放送、その他会場整理等にも十分配慮することとした。

審理の具体的進行状況は、次のとおりである。まず、被告委員会会長但馬弘衛(以下「会長」という。)が審理開始時刻の午後一時に審理開始宣言を行つたが、新空港建設に反対する関係権利者(以下「反対派権利者ら」ともいう。)が入場しないため、やむなく午後一時三〇分までこれらの者の入場を待つ旨を宣し、場外にもこの旨アナウンスした。反対派権利者らは、受付において関係人として認められなかつた使用契約者等の取り扱いについて激しく抗議した後、ようやく午後一時三五分ころ入場した。

会長は、審理における注意事項及びその運営方法についてあらかじめ説明を行つた後、反対派権利者らからされた使用契約者等の排除、分割申請、警備及び特措法の違憲性等に関する釈明要求に対し、確認証によつて関係人であると主張する者(使用契約者等)については、調査したところ関係人とは認められないこと、分割申請は適法であること、警備は一般警備であること及び特措法の違憲性については被告委員会においてそれを判断する権限を有していないこと等の釈明を行つたが、この釈明中にも反対派権利者らが注意を無視して発言し、釈明後も強く発言を続けて会長の指示に従わなかつたため、審理を妨害する行動と認めてこの発言を禁じ、あらかじめ示しておいた順序により、起業者公団に対して事業計画の説明を求めた。

公団が事業計画の説明を開始したところ、反対派権利者ら多数が委員会席前に詰め寄り、やじ等でその発言を妨害する等の混乱を引き起こしたため、会長は休憩を宣した。審理再開後、またも反対派権利者らは公団の発言を妨害して騒然となつた。再度休憩の後、公団が説明に入つたところ、突然一般傍聴席にいた学生風の者が飛び出し、公団席に詰め寄り、場内に混乱を引き起こした。

このため、会長は、当日の審理続行は不可能と判断し、審理を打ち切つた。

(5) 第二回審理

第二回審理は、同月二四日、同体育館において開催されたが、前回同様、審理開始時刻の午後一時に審理開始宣言がされたが、反対派権利者らが入場せず、ようやく午後一時三〇分ころ入場を開始した。その際、学生風の者ら多数が強引に受付を突破して場内に乱入したため、やむを得ず警察官の出動を要請し、乱入者を退場させた。この間、反対派権利者らは一旦退場し、午後二時過ぎに再び入場したが、突然一斉に椅子を定位置から委員席真下に移動させ、委員に対し口々にやじる等の行動に出て、会長の定位置に戻るようにとの指示に従わず、また、会長の許可なく釈明要求、抗議等の発言を続けた。

会長は、定位置に戻らなければ正常な審理ができない旨を告げたが、反対派権利者らがこれを全く無視したため、やむなく休憩し、再開後、定位置に戻るようにとの被告委員会事務局職員の再三の注意にも応じないので、その状態のまま公団の事業計画の説明を求めた。

公団代理人が事業計画の説明を開始したところ、反対派権利者らが公団代理人を取り囲み、やじ等でその発言を妨害し、かつ、反対派権利者らのうち数名がマイクを奪おうとする行動にでる等の混乱を引き起こし、これを制止しようとする千葉県職員ともみあうなど場内が大混乱となつたため、会長は、正常な審理を行うべく、やむなく警察官の出動を要請し、公団の説明を続行した。その後、反対派権利者らから事業計画の説明が聞き取れなかつたとの発言があり、会長は、事業計画を十分理解してもらうため、再度公団にその説明を求めた。

反対派権利者らは、自ら要求した再度の公団の説明の際にも、やじ等でその発言をほとんど聴取不能にし、公団の説明が終わるや、矛先を被告委員会に向け、会長の審理指揮に従わずに釈明要求や抗議を繰り返したため、会長は、午後五時三〇分ころ閉会を宣した。

(6) 被告委員会による補完現地調査

被告委員会は、同年四月七日、前記(3)の現地調査に当たり、反対派権利者らの妨害で完了しなかつたものについての補完調査及び起業地全容、関係する代替地の状況等を把握し、併せて東関東自動車道及び成田ニユータウン建設状況を視察して今後の裁決に資するため、ヘリコプターによる上空からの調査を実施した。

(7) 第三回審理

被告委員会は、あらかじめ関係権利者との間で了解を得ていた同月二七日に、第三回審理を前記の県体育館において開催した。

今回も、前回及び前々回と同様、会長は審理開始時刻の午後一時に審理開始宣言を行つたが、反対派権利者らの入場がなかつた。会長は、反対派権利者らの入場を待つとともに、場外に向けて速やかに入場するよう放送により再三呼び掛けた。反対派権利者らは、これに応ぜず、場外で気勢を挙げ、受付において次回審理期日の決定が一方的であるとして激しく抗議し、これを延期すること等を要求して、故意に入場の遅延を図り、被告委員会事務局職員と数度の応酬の末、再三の入場勧告によつてようやく午後三時過ぎに入場した。

会長が、今回は関係権利者の意見陳述を求める旨の指示をしたところ、反対派権利者らから次回審理期日の決定が不当であるとの抗議、釈明要求がされ、これに対し会長は、本件緊急裁決の申立ては特措法による特公事業認定を受けた事業について行われているものであること、多数の関係権利者を擁する事件であること等の理由により、審理期日は関係権利者の要望を考慮しつつも、職権で決定せざるを得ないので協力されたい旨述べた。

ところが、反対派権利者らは、これを了解せず、なおも右と同内容の抗議、釈明要求の発言を繰り返し、その他の点については発言をしなかつたため、会長は、次回審理は予定通り開催する旨を告げ、午後五時ころ閉会した。

(8) 第四回審理

第四回審理は、前回予定されていた同月三〇日、同体育館において開催された。会長は、審理冒頭において、第三回審理における反対派権利者ら代理人から提出のあつた求釈明書について回答した後、関係権利者の意見陳述を求める旨の指示をした。ところが、反対派権利者ら代理人は、今回の審理期日の決定を中心に釈明要求をし、会長の審理指揮に従わずに同内容の発言を繰り返し続けた。

その後、関係権利者のうちから、事業の公益性等からみて土地収用に絶対反対であり、一銭の補償金も一坪の代替地もいらない旨の意見と被告委員会に対する釈明要求とがされたが、会長は、釈明要求についての重複発言を制限し、他に意見を述べる者の発言を促したが、意見は述べられなかつた。

そこで、会長は、新たな意見が述べられない場合は、現在までに述べられた意見、被告委員会の職権によつて調査した結果及び意見書等によつて判断する場合がある旨を述べ、なおも関係権利者の意見陳述を待つたが、午後五時に至るもなかつた。そこで、会長は、今後審理を続行するかどうかは、後日被告委員会において決定する旨告げ、閉会した。

(9) 工事の進捗状況

本件緊急裁決直前の昭和四六年四月ころにおいては、本件緊急裁決に係る土地に関連する区域以外の第一期工事区域において、ほぼ全域にわたり、新空港敷地造成工事、滑走路及び誘導路の舗装工事、雨水排水施設設置工事、共同溝設置工事、旅客ターミナル新築工事、受変電所新築工事、管理棟新築工事、エプロン舗装工事、構内道路設置工事、上下水道等供給施設設置工事、航空保安無線施設設置工事、航空灯火設置工事、その他第一期施設の工事が進められていた。

(10) 緊急裁決

被告委員会は、第四回審理終了後、四回にわたる裁決会議を開催し、現地調査によつて得られた資料、審理において述べられた意見、関係権利者及び公団の提出した意見書並びに裁決申請書、明渡裁決申立て書及びそれらの添附書類等を慎重に検討した結果、確認証を提出して関係人であると主張する九七七五人の者については、右文書が専ら土地の収用を妨害する目的で作成された名目のみのものに過ぎず、収用法八条三項に規定する関係人とは認められなかつたので、これらの者を除く関係権利者及び公団に対し、同法四八条、四九条に規定する裁決事項について次のとおり判断した。

<1> 収用する土地の区域

公団から収用裁決の申請のあつた土地の区域は、裁決申請書及びその添附書類並びに現地調査の状況等から、申請に係る土地が滑走路、誘導路、エプロン、構内道路、駐車場及び着陸帯設置区域等に所在し、本件第一期事業に必要なものと認められ、かつ、収用法四八条二項に規定する要件に適合するものであつたので、公団の申請のとおりとした。

<2> 損失補償

損失の補償については、収用法四八条三項の規定により、被告委員会は、当事者の申立ての範囲を超えて裁決してはならないこととされており、関係権利者から損失の補償について何ら具体的な主張がなかつたが、次のとおり判断した。

ア 土地に対する損失の補償

関係権利者は、公団の見積りに対し、特に補償額の提示をしなかつたが、被告委員会は、いまだ補償契約が締結されていない事実をもつて、関係権利者が公団の提示額を不満としているものと認め、現地調査その他の資料等から裁決額をもつて妥当と判断したが、なお審理を尽くすべくこれを仮補償金とした。

イ 土地に対する損失の補償以外の損失の補償

第四回審理において、関係人から一銭の補償金も一坪の代替地も要らないとの主張のほか、立木等の補償について所有者から特に額の提示はなかつたが、被告委員会は、いまだ補償契約が締結されていない事実をもつて、公団の見積額を不満としているものと認め、現地調査その他の資料から裁決額をもつて妥当と判断したが、なお審理を尽くすべくこれを仮補償金とした。

ウ 物件の収用請求

被告委員会は、特措法二四条の規定により、同法二二条に規定する物件の収用請求についての意見書の提出期限を昭和四六年三月一三日として、同年二月一五日付け千収委第二五号をもつて、よねほか七六人に通知したが、右の者から請求がなかつたので、公団の申請どおりとした。

エ 仮住居による補償

被告委員会は、特措法二四条の規定により、同法二三条に規定する仮住居の提供に関する意見書の提出期限を同年三月一三日として、同年二月一五日付け千収委第二六号をもつて、よねほか一一人に通知したが、右の者から要求がなかつたので、同条二項に規定する裁決は行わなかつた。

<3> 権利取得の時期及び明渡しの期限

公団の仮補償金の支払いに要する期間並びに関係権利者の土地の引渡し及び移転に要する期間等を考慮してこれを決定した。

<4> 審理参加者の費用負担

被告委員会は、反対派権利者らから審理参加者の費用負担を求められていたが、収用法一二七条の規定により、審理参加者が自ら負担しなければならないとされているので、これを認めなかつた。

(11) 緊急裁決書の送達

被告委員会は、右(10)の判断に基づき、特措法二〇条一項の規定により、同年六月一二日、本件緊急裁決を行い、裁決書の正本を公団、関係権利者に送達した。

(12) 代執行

公団は、本件緊急裁決のあつた一四件三〇筆の土地のうち、地上に物件の存する一〇件一五筆の土地について、同裁決に定められた同年八月一二日の明渡し期限までに被収用者らが物件移転を完了しなかつたため、同月一三日、千葉県知事に対し、収用法一〇二条の二第二項の規定による代執行の請求を行つた。

千葉県知事は、同年九月一日、右申請に係る被収用者らに物件を移転すべき旨の戒告を行い、同戒告に従わない被収用者らに対し、同月一一日、代執行令書を送達した。

なお、代執行の請求があつた土地のうち、請求後に被収用者らとの話し合いの結果、自ら物件を移転する等の理由から代執行請求を取り下げたものがあり、最終的には本件一八番地を含む五件六筆の土地について、同月一六日から同月二〇日までに第二次の代執行が実施された。

(三) 本件裁決手続の経緯

(1) よね及び戸村一作ほか六二人は、被告大臣に対し、昭和四六年七月一三日付けで、本件緊急裁決を不服として本件審査請求を提起し、その後、よねの地位を承継した原告ら(審査請求人)の代理人は、被告大臣に対し、昭和五三年一二月二〇日付けで審査請求補充書を提出した。

(2) 被告大臣は、審査請求人代理人に対し、昭和五四年二月七日付けで行服法三〇条の規定に基づき審尋を行い、同代理人は、被告大臣に対し、同年三月八日付けで右審尋に対して回答した。

(3) 被告大臣は、被告委員会に対し、同月一四日付けで行服法二二条一項の規定に基づき弁明書の提出を求め、被告委員会は、被告大臣に対し、同月三一日付けで同条二項の規定に基づき弁明書を提出した。

(4) 被告大臣は、審査請求人代理人に対し、同年四月二四日付けで右弁明書を送付し、反論があるときは同年五月一四日までに行服法二三条の規定による反論書を提出することを求めた。同代理人は、被告大臣に対し、同月一四日付けで第一回反論書を、同月二九日付けで第二回反論書を提出するとともに、同日付けで審査請求補充書(その二)を提出した。

(5) 審査請求人代理人は、被告大臣に対し、同年七月三日付けで右の第一回及び第二回反論書並びに審査請求補充書(その二)を被告委員会に送付したか否かに関する質問及び被告委員会の再弁明書の提出を求める旨の申入書を提出し、さらに、同月一二日付けで行服法二五条一項ただし書に基づく口頭意見陳述の機会付与を求める旨の申入書、審査請求理由補充書(その三)及び本件緊急裁決申立書に理由が記載されていなかつたことに関する教示依頼書を提出し、次いで、同月一九日付けで被告委員会の再弁明書の提出を求める旨の申入書及び被告委員会より行服法三三条一項に基づき提出された本件緊急裁決の理由となつた事実を証する書類その他の物件(裁決資料等)に関する問い合わせ書を提出した。

被告大臣は、口頭意見陳述の機会を求める申入れについて、同年八月一四日付けで、同月三〇日午後二時から口頭意見陳述の機会(第一回目の機会)を付与する旨の通知をした。

(6) 審査請求人代理人は、被告大臣に対し、同月二四日付けで右口頭意見陳述の機会の期日の延期を求める期日変更申請書及び裁決資料等の閲覧の申立書を提出し、さらに、同年九月五日付けで裁決資料等の閲覧期日を同月二九日午前一〇時から同一二時又は同年一〇月二日午後三時から同五時にして欲しい旨の申入書を提出した。

被告大臣は、同代理人に対し、同年九月一三日付けで裁決資料等の閲覧期日を同月一四日より同月二八日までの期間中あらかじめ申出のあつた日時とする旨及び同月二九日午前一〇時から口頭意見陳述の機会(第二回目の機会)を付与する旨の通知をした。またこの通知に併せて、建設省計画局総務課長は、同代理人に対し、同月一三日付けで再度の口頭意見陳述の機会の期日の変更は原則として認められない旨の通知をした。

一方、同代理人は、被告大臣に対し、同月一四日付けで同月二九日に裁決資料等の閲覧に赴くので了承願いたい旨の申入書を提出した。

(7) 審査請求人代理人は、同月二七日、裁決資料等の閲覧をし、また、同月二九日、担当官から口頭意見陳述をするよう求められたにもかかわらず、これをすることなく裁決資料等の閲覧のみを行い、同日付けで、被告大臣に対し、審査請求人小泉美代の出産後の健康の回復を待つて口頭意見陳述の機会を求める等の申入書を提出した。審査請求人代理人は、被告大臣に対し、同年一〇月一日付けで同代理人による口頭意見陳述の機会を同年一一月九日午後一時から与えることを求める旨の申入書を提出したので、被告大臣は、同代理人に対し、同年一〇月一一日付けで右申入れを拒否する旨を回答した。

(8) 被告大臣は、以上の経過を踏まえて、公害等調整委員会に対し、同月一二日付けで収用法一三一条一項の規定に基づき意見を求め、同委員会は、被告大臣に対し、同年一二月四日付けで意見を提出した。

被告大臣が同委員会に右意見を求めた後、審査請求人又は同代理人は、被告大臣に対し、同年一〇月一九日付けで口頭意見陳述の機会の付与を求める旨の請求書を、同月二〇日付けで同年九月二九日に閲覧したもの以外に裁決資料等はないか、あるとすればその閲覧を求める旨の申入書を、同月二九日付けで被告大臣の同月一一日付け回答に対する抗議書を、同年一二月六日付けで、再度、口頭意見陳述の機会の付与を求める旨の請求書を、昭和五五年二月二九日付けで審査請求理由書を、それぞれ提出した。

被告大臣は、公害等調整委員会に対し、同年四月一八日付けで、再度、収用法一三一条一項の規定に基づき意見を求め、同委員会は、被告大臣に対し、同年五月一二日付けで意見を提出した。

(9) 被告大臣は、公害等調整委員会の意見を参考にし、同年八月二九日付けで本件裁決を行い、同日、行服法四二条二項、四項の規定に基づき、審査請求人代理人及び被告委員会に対し、裁決書の謄本を送付し、同謄本は、同年九月一日、審査請求人代理人に送達された。

3  本件緊急裁決の適法性について

本件緊急裁決は、前記1の事情の下において、前記2の(一)及び(二)の経緯で行われたものであるから、特措法及び収用法に基づいた適法なものであり、原告ら主張の違法事由は以下のとおりいずれも失当である。

(一) 正当な補償を満たし得ない収用法及び特措法の違憲性の主張(請求原因3の(一))について

(1) 憲法二九条三項にいう「正当な補償」とは、収用により取得される財産の価格を補填し、被収用者に対して、収用の前後における財産価値に異同なからしめるに足りるものを意味すると解すべきである。

収用法は、七一条により収用事業認定時における価格固定の規定を設けると同時に、四六条の二により収用事業認定告示後は裁決前であつても関係権利者に補償金の支払請求権を与え、補償金の算定時期と支払時期とを一致させる措置を講じ、九〇条の三及び九〇条の四により加算金及び過怠金の制度を規定し、また、収用事業認定時に固定した価格に物価変動に応ずる修正をなし、長期間の価格固定を避けるため、二九条一項において収用事業認定の告示のあつた日から一年以内に収用等裁決を申請しなければ、収用事業認定は効力を失うこととしているのである。これらの点に鑑みれば、収用事業認定時における価格固定の制度は、憲法二九条三項にいう「正当な補償」を満たすことができない制度ではない。

(2) 特措法が仮補償金の制度を定めたのは、公共の利害に重大な関係があつて緊急に施行することを要する特公事業は遅延を許さないものであるので、損失補償に関する審理に時日を要して特公事業の施行に支障を及ぼすおそれがある場合には、補償の方法又は金額について審理を尽くさないまま収用又は使用の裁決をすることができるようにするためであり、右制度は収用法上の事前補償の例外を定めたものである。そもそも憲法二九条三項は、「正当な補償」と規定しているだけであり、補償の時期については言明していないのであるから、補償が財産の供与と同時交換的に履行されるべきことについては、必ずしも憲法の保障するところではない。また、事前補償の原則は、収用制度の本質からくる必然のものではなく、被収用者の正当な経済的利益を保障するための便宜に基づく原則であると解されているものである。

したがつて、事前補償の原則の例外措置を採ることを認めるか否かは、立法政策の問題であり、例外措置の公益上の必要性の有無と被収用者の経済的利益の保護が十分であるかどうかの点を基準として判断されるべきところ、特措法は、特に公共の利害に重大な関係があり、緊急に施行することを要する特公事業について、明渡裁決が遅延することによつてその事業の施行に支障を及ぼすという公益上の必要性が強い場合に、緊急裁決(仮補償金による場合を含む。)をすることを認めているに過ぎないこと、仮補償金が支払われた後も、同法三〇条に規定する補償裁決をするに際し、補償金額と仮補償金の額に差額がある場合には、利息を付して清算するものとしていること(同法三三条)及び同法二三条において仮住居の提供による補償の制度を設けていることにより、実質的に事前補償と大差がないような措置が講じられているということができるのであつて、何ら憲法二九条三項に違反するものではない。

また、特措法四二条三項が仮補償金について損失補償に関する訴えの提起を認めていないのは、仮補償金は、補償裁決で権利関係が最終的に確定されるまでのものであつて、収用委員会において争われるべき性質を有しているので、訴えの提起を認めるのが適当でないからである。しかし、被収用者は、補償裁決を受けた後、損失の補償に関する訴えを提起することは何ら妨げられないのであるから、憲法三二条にも違反するものではない。

(3) なお、原告らは、本件緊急裁決の取消しを請求しているものであるが、正当な補償が欠如しているとする原告らの主張のうち、損失補償についての不服は、収用法一三二条二項の規定により、裁決の取消訴訟において違法事由とすることができないものである。

(二) 恣意的申立てを受理した違法の主張(請求原因3の(二))について

本件両土地及び二四番地は一団の土地ではない。収用法及び特措法には、一団の土地でない土地について分割して収用申請すること及び緊急裁決の申立てをすることを禁ずる旨の規定はないのみならず、かえつて、収用法三九条二項等の規定に徴すれば、分割申請及び分割申立てを許容しているものと解されるのであるから、公団の本件両土地に対する本件緊急裁決の申立てを違法又は不当ということはできず、これを受理してされた本件緊急裁決が憲法三一条の適性手続条項に違反することはなく、ましてや同法二五条に違反するものではない。

(三) 収用法四七条違反の主張(請求原因3の(三))について

特措法一九条の規定により読み替えられた収用法四七条二号において比較されるものは、同法による収用事業認定及び特措法による特公事業認定に係る事業計画と、収用法三九条の規定による収用裁決申請に係る事業計画である。

本件第一期事業は、本件事業のうち、緊急に完成させることを必要とする四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設(第一期施設)を建設しようとするものであり、これが完成すればそれ自体で国際空港として機能し得るものであつて、新空港の工事実施計画の認可においても、同事業に係る第一期施設の工事の完成期日がその他の施設(第二期施設)とは別途区分して定められているのであり、特公事業の認定の対象になり得るものである。この場合において、特公事業認定に係る事業計画と、収用法三九条の規定による収用裁決申請に係る事業計画とを比較する際に必要なのは、特公事業認定に係る事業計画と収用裁決申請に係る事業計画のうち対応する部分の比較であつて、単純形式的に全体計画とそのうちの一部の計画との比較ではないのである。そして、本件緊急裁決に係る収用裁決申請の事業計画と本件第一期事業の事業計画とは、その対応する部分において同一であるから、同法四七条二号に該当するものではない。

(四) 特措法二〇条一項違反その一(裁決の遅延により事業の施行に支障を及ぼすおそれの判断の誤り)の主張(請求原因3の(四))について

(1) 特措法二〇条一項は、緊急裁決を行う要件として(i)事業が特公事業の認定を受けたものであること、(ii)明渡裁決が遅延するおそれがあること、(iii)申立てに係る土地の取得が遅れることによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがあること、を定めているのであつて、収用委員会が緊急裁決を行うときは、右要件を満たしているか否かを判断することになり、収用委員会は、この判断に当たつて、特公事業認定を受けていることを前提として用地取得の緊急性、すなわち、緊急裁決の申立てが、当該事業計画上又は専ら当該土地についての工事工程及びその実施状況等の関係から当該土地を緊急に取得する必要があるか否かの判断、並びに、その必要があるとして、審理の経過等から明渡裁決が遅延するおそれがあるか否かを判断すれば足りると解すべきである。

(2) 本件第一期事業は、本件事業のうち、第一期建設工事として四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設(第一期施設)を建設する事業であるが、同事業は、前記1のとおり、近年めざましい増大を示している航空輸送需要に対応し得なくなつた羽田空港の現状から見て、特に緊急に施行することが必要と認められ、特措法七条に基づき特公事業認定がされ、昭和四五年一二月二八日付けでその告示がされたものである。

そして、本件緊急裁決の審理は、昭和四六年二月三日に公団からされた本件第一期事業に係る緊急裁決の申立てについて行われたものであるが、本件事業に係る第一次申請の審理等における関係権利者の妨害行為等顕著な審理混乱や審理遅延と同様の混乱、遅延が十分予想されていたところ、実際に、反対派権利者ら及び支援学生による妨害行為があつた。そこで、被告委員会は、公団の説明、裁決申請書、明渡裁決申立書及びこれらの添附書類等による本件第一期事業の施行内容と被告委員会による現地調査及び審理における事態を総合的に判断して、明渡裁決が遅延することによつて本件第一期事業の施行に支障を及ぼすおそれがあると認定したのである。

(3) ところで、原告らは、本件緊急裁決につき、特措法二〇条一項の緊急性の判断に際し、請求原因3の(四)の(1)で掲げる三つの事項との関連において緊急性を判断すべきであると主張する。

しかし、そのうち(i)及び(ii)の事項は、本件第一期事業認定に際して、同事業自体の緊急性の有無及び公益性に係る他の判断事項と併せて被告大臣により考慮されたところであり、その結果、本件第一期事業につき特公事業認定が行われているのである。そして、事業認定庁と収用委員会との権限分配を定める収用法及び特措法の法制度からすると、収用委員会は、緊急裁決の判断に際して、事業認定庁により特公事業認定をするに当たつて判断された事項については当然にその判断に拘束されるのであり、特公事業認定が不存在である場合を除き、その有効、無効あるいは原告らの主張するような右の事項を判断する必要がないものと解するのが相当である。

また、(iii)の事項については、特措法二〇条一項の緊急性に係る収用委員会の判断は、起業者から申立てのあつた土地について、当該事業の供用開始日、当該土地についての工事工程及びその実施状況等の関係から、当該土地の取得が遅れることにより事業の施行に支障を及ぼすおそれの有無を判断すれば十分であると解される。したがつて、そのおそれがあると判断される以上、収用委員会には、当該申立てが行われた土地以外の土地の取得状況との関連を判断することは求められていないことになる。このことは、同項が起業者の申立てにより緊急裁決を行う旨規定し、緊急に土地の取得が必要であるとして緊急裁決の申立てをするか否か、あるいは、任意取得が可能であるとか、事業の施行に支障がない等により同申立てをしないかについては、起業者の裁量に委ねられていて、収用委員会の関与すべきでないことからも窺えるところである。

なお、本件緊急裁決の判断に当たつては、慎重を期するため、申立てに係る土地の工事の実施状況等のみならず、現地調査等により次の(4)のとおりの第一期工事区域における工事の実施状況をも把握、考慮したうえ、判断している。

(4) 第一期工事区域内の土地の取得状況との関連においても、以下のとおり、本件緊急裁決の緊急性が認められるものであつた。

<1> 本件両土地は、新空港の構内道路建設予定区域に所在し、右構内道路は、新空港の各種施設区域相互間及び新空港外との機能的な連絡を確保するためのものであり、極めて重要な施設である。特に、本件両土地の所在する区域は、新空港の出入口部分に当たり、新空港の機能確保上必要不可欠のものであつた。

<2> 本件両土地の状況及び本件両土地に係る区域に予定されていた工事の内容は、次のとおりである。

ア 本件一二番地は、昭和四六年三月一二日の被告委員会事務局の現地調査当時、谷地田の地勢であり、水田として利用されていた形跡があるとされている。これは、右調査の時期が三月であることから、土地の利用状況について右の様に記載されているが、その後水稲が植栽されて明らかに水田として利用されている。

このように、同土地は、新空港の北側の地盤が軟弱な谷地田部に位置する水田であるため、構内道路の建設工事を進めるにあたつては地盤改良が必要不可欠であつた。このため、昭和四五年一一月から、本件両土地を含む一帯の区域において「構内道路地区地盤改良その他工事」が着手されていたが、その内容は、砂を一定の厚みで敷きつめて重機等の機械使用を容易にするサンドマツト工事、地盤をさらに強化するため地中に砂の柱を打ち込むサンドコンパクシヨンパイル工事及び排水用函渠工事などを行うものである。

構内道路を建設するためには、これらの地盤改良工事が完了した後、さらに段階的に盛土工事、舗装工事、法面保護工事等を施行する必要がある。これらの工事はいずれも並行して施行することができないことから、最初の地盤改良工事に着手できなければ、総体的に構内道路建設の工期は延伸することになる。したがつて、早期に構内道路を完成させるために、本件一二番地の取得は緊急性の極めて高いものであつた。

イ 本件一八番地は、右の現地調査当時、本件一二番地を含む谷地田部に接する南傾斜地に、道路より北東側にがけ状に高くなつた土地で、東西北の三方を山林等で囲まれた地勢であり、地目は宅地であつた。本件一八番地は、従前はよねの住居用として使用されていたが、本件緊急裁決当時には団結小屋化しており、不特定多数の者が出入りしていた。

同土地における工事としては、同土地の地盤が比較的強固であることから、本件一二番地のように地盤改良工事を必要としなかつたが、その後の盛土工事、舗装工事、法面保護工事等の工事の施行は、必要である。

<3> 本件両土地に係る区域の工事の進行状況は、次のとおりである。

ア 昭和四六年二月当時(本件緊急裁決申立時)は、本件一二番地の周辺の谷地田部においては、その一帯に地盤改良工事であるサンドマツト工事やサンドコンパクシヨンパイル工事が行われていた。また、本件一八番地及び同土地に接する道路の際までサンドマツト工事が施行されていた。本件両土地の周辺土地における地盤改良工事の進捗状況は、全体としておよそ五〇パーセント程度に達していた。

イ 昭和四六年五月当時(本件緊急裁決直前時)は、本件一二番地の周囲には土留柵が設置され、同土地を除き、同土地周辺の谷地田部における地盤改良工事も全体的にほぼ終わり、一部では盛土工事も始められていた。また、同土地と本件一八番地の間では、排水幹線設置工事も進められていた。右工事の進捗状況は、およそ三〇パーセント程度であつた。

ウ 昭和四六年八月当時(本件緊急裁決による代執行直前時)は、本件両土地の周辺における本件両土地以外の地盤改良工事はほぼ完成し、排水幹線設置工事は道路の部分を除きほぼ完成していた。

エ その後、本件一二番地について地盤改良工事が、本件一八番地について立木その他の物件の除去、表土の除去工事が行われ、さらに、全体的に盛土工事以下それに続く工事が行われていた。

(5) 以上のとおり、本件第一期事業については、特措法が適用されたように、事業が公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであることの要件を満たすものであるところ、公団が作成した事業計画における第一期施設の供用開始の時期については、昭和四四年一二月一六日の本件収用事業認定時において昭和四六年四月を目途とされ、公団はその計画を遂行すべく種々の工事を進めていたものである。ところが、反対同盟等の組織的な新空港建設に対する反対運動等により、公団が計画したとおりには各工事が進捗せず、このため特措法を適用して本件緊急裁決の申立てをした昭和四六年二月当時には、第一期施設の供用開始時期をその最も早い時期として昭和四七年初頭に変更せざるを得ない状況に至つた。しかしながら、このことは、第一期施設の緊急性が希薄化ないしは先送りになつたということではなく、時の経過に伴い、ますますその緊急性が増大し、したがつて、第一期工事区域の土地の取得の緊急性が増大していたことを意味するものである。

そして、第一期施設を昭和四七年初頭に供用開始するためには、本件両土地を含めて昭和四六年二月に本件緊急裁決の申立てをした土地について遅くとも同年五月にはその部分の工事に着工しなければならず、したがつて、それ以前に右土地の引き渡しを受けていなければならない状況にあつた。また、第一期施設の機能的一体性及び工事工程の一体性、連続性という観点からしても、本件両土地を含めて本件緊急裁決の申立てをした土地について、その土地ごとにおける緊急度を比較することにさほどの意味を有しない状況にあつたのであり、全面的に緊急に取得すべき必要性があつたというべきである。のみならず、本件両土地についても、その取得が遅れれば遅れるほど、本件両土地に予定されていた構内道路建設に必要な地盤改良工事、盛土工事等の進行が妨げられ、さらには舗装工事、法面保護工事にも遅延が生ずることになり、ひいては新空港全体の機能確保上にも大きく影響するものであつたため、公団にとつて正に緊急に取得する必要があつたものである。

(6) なお、原告らは、本件緊急裁決を受けた土地の中に、代執行に至らなかつた土地や任意に取得した土地の明渡しの事情をもつて緊急性の欠如の理由としているが、緊急裁決の適法、違法の判断は、処分時を基準とすべきであつて、右原告らの主張する事由はいずれも本件緊急裁決時以降の事由であるから、これをもつて、被告委員会の本件緊急裁決における緊急性の判断に誤りがあるというのは、失当である。

(五) 特措法二〇条一項違反その二(損失補償に関する審理の十分性)の主張(請求原因3の(五))について

損失補償については、収用法四八条三項の規定により、収用委員会は当事者の申立ての範囲内において裁決することになるが、本件緊急裁決においては、前記2の(二)のとおり、被告委員会が四回にわたり審理を開催し、関係権利者に意見陳述の機会を設けたにもかかわらず、関係権利者は何ら具体的な意見を述べなかつたばかりか、いたずらに審理の混乱、遅延を策したのである。このような事情から、被告委員会は、関係権利者が公団の見積額を不満としているものと判断し、現地調査その他の資料から検討し、損失の補償について裁決を行つたが、さらに、慎重を期するため仮補償金としたのである。

(六) 収用法六九条(補償金の個別払いの原則)違反の主張(請求原因3の(六))について

本件緊急裁決の申立ては、特措法二〇条四項により裁決期間の制約を受けているものであるところ、本件一八番地に対する補償は四回の審理においても、よねの有していた使用借権の内容が不明であつたため、前記2の(二)の(10)の<2>のアのとおり判断し、なお審理を尽くすべく、これを仮補償金とし、右仮補償金につき、関係権利者が受領することを拒んだので、一括して供託したのである。しかし、よね又は同人の承継人である原告らと同土地の所有者岩沢真治との間で協議を整え、あるいは訴訟等で権利割合を確定すれば、自己の権利割合に応じて右仮補償金を受領できるのである。原告らは、自ら右仮補償金を受領する権利を行使せずに、右仮補償金が一括供託されたことをもつて、本件緊急裁決に違法がある旨主張するが、失当である。

(七) 特措法二三条違反の主張(請求原因3の(七))について

特措法二三条は、一項において、被収用者に仮住居の提供による補償を要求することを認め、二項において、被収用者から一項に基づく同補償の要求があることを前提条件として、収用委員会が同補償の裁決をすることができる旨規定している。

よねは、前記2の(二)の(10)の<2>のエのとおり、被告委員会からの仮住居の提供に関する意見書の提出を求められたにもかかわらず、これを提出せず、仮住居の提供による補償を要求しなかつた。したがつて、被告委員会が、本件緊急裁決において、よねに対し同補償の裁決をしなかつたことをもつて、同条に違反するということはできない。

(八) 緊急裁決における手続的瑕疵の主張(請求原因3の(八))について

(1) 特措法二〇条二項違反の主張(請求原因3の(八)の(1))について

緊急裁決申立書に緊急裁決を申し立てる理由を記載することとされているのは、収用委員会が特公事業に係る明渡裁決が遅延することによつて同事業の施行に支障を及ぼすおそれがあるとの要件の存否を判断するための参考資料として、起業者においてまず右の要件の存在を明らかにさせようとするものであるから、たとえ右申立書に右の理由の記載がなくとも、審理等で右の要件が認定できれば、それで足りると解するのが相当である。

本件緊急裁決申立書には緊急裁決を申し立てる理由の記載がなかつたが、被告委員会は、審理における公団の説明、現地調査、関係権利者の行動等により、緊急性の認定を行つたものであり、こうして行われた本件緊急裁決には違法があるとはいえない。

また、右の要件の該当性については、裁決書においても、該当する理由の項で、関係権利者の一連の審理妨害行為等の行動、被告委員会による現地調査、公団の説明、本件緊急裁決申立書、明渡裁決申立書及びこれらの添附書類により、右要件を認定したことを具体的に述べているところである。

(2) 収用法四七条の三第一項違反の主張(請求原因3の(八)の(2))について

公団は、第二次申請を行うに際し、本件一二番地には、物件が存在していなかつたので、土地調書のみを作成し、第三次申請を行うに際し、本件一八番地の土地調書及び物件調書の作成を行い、右各申請時に右各調書を被告委員会に提出している。

ところで、稲等の立毛については、それらが物件調査時に存在していなければ、物件調書を作成しなくても違法ではないのみならず、本件においては、本件一二番地について、公団から昭和四六年五月二六日付け意見書で稲立毛の立毛補償の申立てがあり、これに基づき、被告委員会は、立毛補償を含めて仮補償金を決定している。

なお、土地上に物件が存在しない場合にも、その事実を明確にして、収用委員会の審理を円滑にするため、物件調書を作成すべきである旨の同年八月一三日茨城県土木部長宛建設省計画局総務課長回答は、物件が存在しない場合でも、その旨の調書を作成すれば、収用法三八条の規定により物件がないことについての推定が働くことになり、ひいては審理の円滑な促進に資することになるところから、物件調書の作成を要するとしたものであり、物件が存しない場合にも物件調書が作成されなければ違法であるという趣旨のものではない。

(3) 特措法二〇条四項違反の主張(請求原因3の(八)の(3))について

特措法二〇条四項の規定は、収用委員会は緊急裁決の申立てがあつた日から二か月以内に裁決しなければならないとの努力義務を定めたに過ぎない。ところで、二か月の期間内に同委員会が裁決を行わない場合には、当該不作為に対し、行服法七条の規定による異議申立てをなし得るという起業者救済の途は付与されているが、これによつて、右の期間経過後は同委員会が裁決をしなければならない義務がなくなるというものでもなければ、同委員会の裁決をすることができる権限が消滅するものでもない。また、右の期間を経過したからといつて、起業者の緊急裁決の申立てが失効するものでもない。したがつて、収用委員会は、右期間経過後においても緊急裁決をすることができるのであつて、被告委員会が右期間経過後に本件緊急裁決を行つたことの故に、同裁決が違法となるものではない。

(4) 被告委員会の審理手続の違法の主張(請求原因3の(八)の(4))について

<1> 関係人の審理を受ける権利の否定の主張について

使用契約者等は、関係人であることを証する唯一の証拠として確認証を提出したのであるが、その内容は、次のアないしエの理由により信用できないものであり、確認証が専ら土地の収用を妨害する目的で作成された名目のみのものに過ぎないと認められたので、被告委員会は、確認証を提出した使用契約者等を関係人と認めなかつたのである。

ア 確認証によると、例えば、成田市取香字天浪八〇五番(収用事件番号一九番の土地)の二畝二一歩の土地について一七七六人、本件一八番地上の一六・五四平方メートルの建物について一七三五人というように多数の借主がおり、このような契約は社会通念上あり得ないこと。

イ 使用契約者等の大半は、それぞれ借用に係る土地及び建物から相当遠距離に居住している者らであり、経済的あるいは作業的見地から見て、確認証のような契約を締結するはずがないこと。

ウ 肥料等の採取を目的とする契約であるならば、通常、農業経営者の主体である世帯主が借主となれば足りるものであるが、確認証においては、幼児を含め家族全員が借主として名前を連ねている例が大半であり、このような契約は社会通念上あり得ないこと。

エ 確認証が作成されたのは昭和四五年六月一三日から同年九月二日にかけてであるが、その内容を見ると、契約の締結日を、本件事業認定の告示日である昭和四四年一二月一六日より前の昭和四一年一二月一五日及び昭和四四年一〇月一日に遡及させていること。

<2> 一方的かつ背信的審理期日の指定、審理の強行の主張について

被告委員会が、審理期日や開催場所を職権で指定したからといつて、それだけで不公正な審理手続を強行したとはいえないのみならず、被告委員会は、これらの指定については、本件緊急裁決の申立てが多数の関係権利者を擁し、かつ、申立てがあつた日から二か月以内に裁決しなければならないという事情の下で、可能な限り関係権利者の要望を考慮して行つたものであつて、何ら非難されるべき点はない。

<3> 釈明要求の無視の主張について

前記2の(二)の(4)、(5)、(7)及び(8)のとおり、被告委員会は、公正な審理に必要な求釈明事項については、その見解を表明し、又は公団をして釈明させているのであつて、関係権利者からされた審理に必要な求釈明を無視したことはない。

<4> 意見陳述の権利の否定の主張について

被告委員会が審理を終結したのは、前記2の(二)のとおり、本件第一期事業に反対する関係権利者が被告委員会の現地調査を不法に妨害し、また、審理においても、故意に入場を遅延させ、会場内でも会長の審理指揮に従わず、みだりに席を移動し、その発言は釈明要求のみに終始しており、会長が他に意見があるなら述べるように促したのに、これに応ずる者がなかつたからである。このような審理経過があり、また右審理が緊急裁決の申立てに関するものであることから、被告委員会は、これ以上審理を継続しても新たな意見を聴取できる見込みがないものと認め、審理を終結したものであつて、被告委員会の右判断及びこれに基づく措置は正当である。

なお、そもそも右の審理経過に徴すれば、関係権利者は、自ら意見陳述の機会を放棄したものということができるのである。

<5> 警察官の出動による意思制圧下での審理の主張について

被告委員会が審理に際し警察官の出動を要請したのは、被告委員会の現地調査及び審理に当たり、絶えず多数の者による妨害及び示威行為等のため混乱があつたので、一般警備のために行つたものであつて、関係権利者の意思を制圧する等の目的で行つたものではない。

(九) 特公事業確定における実体要件(特措法七条四号(緊急性要件)要件)欠如の違法の承継の主張(請求原因3の(九))について

(1) 違法性の承継について

収用法は、収用事業認定と収用等裁決とをそれぞれ別個の機関に当たらせることとしている。すなわち、同法は、収用事業認定に属する部分の事業の公共性の判断は事業認定庁(建設大臣又は知事)に一任するとともに、それ以後の具体的な収用又は使用裁決の決定は収用委員会に任せることとし、土地等の収用を行うに際して二つの行政機関に関与せしめ、それぞれの職分権能を分離している。そして、収用事業認定及び収用等裁決のそれぞれに行政処分性を認め、これにつき抗告訴訟の対象性が肯定されている。この場合、収用委員会が事業認定庁に優越して、収用事業認定の適否を審査し得るとすると、事業認定庁の行政上の意思は、後に収用委員会の批判にさらされ、既に確定した収用事業認定の効力を左右する結果となるおそれがある。したがつて、収用委員会は、収用事業認定が不存在であるとか無効である場合はともかく、既にされた収用事業認定の要件を審査する権能を有しないのであり、このことは、特措法における特公事業認定と緊急裁決との間においても同様である。

次に、違法性の承継の理論は、先行行為に処分性があること、すなわち先行行為が抗告訴訟の対象になり得るものであることを前提とするものであるが、右理論はそもそも公定力理論に反するばかりか、これを採用するとなると、先行行為が形式的確定力を有する場合には、先行行為の出訴期間の制限を無意味にし、また、場合によつては、後行の処分権者の審査権限が及ばない事項に関する違法を理由に、後行処分が取り消されることになつて不合理であること、先行行為が未だ形式的確定力を有していない場合には、後行の処分権者の審査権限の問題のほかに、先行行為の違法を後行行為の違法事由として主張させる必要が全くないのに反し、この違法事由の主張を認めると先行処分に対する違法の有無に関する判断と後行処分に対する違法の有無の判断との間に矛盾、抵触という混乱を招来するおそれがあることに鑑みると、違法性の承継の理論は、これを否定することが国民の権利利益の救済の観点からみて特段の不合理な事情を招来すると認められる特別の例外的な場合を除き、否定されるべきものといわなければならない。

そこで、右特別事情が収用事業認定と収用等裁決との間においてあるかについてみると、収用事業認定においては、起業者の名称、事業の種類及び起業地を関係市町村の長が公告した上、収用事業認定申請書等が公告の日から二週間縦覧に供され、この間、土地所有者及び関係人らの利害関係人は、都道府県知事に対して意見書を提出することができ(収用法二四条、二五条)、この公告、縦覧の段階で、利害関係人において収用事業が認定される可能性があることを知るに至る。そして、収用事業認定がされると、事業認定庁においてその告示を行い、関係市町村長において直ちに起業地を表示した図面を公衆の長期縦覧に供することとなり(同法二六条、二六条の二)、右の告示によつて、利害関係人は収用事業認定があつたことはもちろん、起業地についても字の単位まで知り得る状態に置かれ、起業地表示図面をいつでも確認し得ることとなる。さらに、起業者による周知措置も行われることになつている(同法二八条の二、同法施行規則一三条、一三条の二)。このように、収用事業認定について、法律上公告、告示、縦覧等の諸制度が設けられており、利害関係人は収用事業認定を迅速かつ確実に知り得る機会が与えられており、右の事業認定に違法がある場合には、取消訴訟を提起することが容易である。したがつて、収用事業認定に関する救済手段としては、同認定に対する取消訴訟を提起するだけで十分であり、収用等裁決の取消訴訟において、収用事業認定の違法を争わせなければならない必要性はないというべきである。そして、以上のことは、特公事業認定と緊急裁決との間においても全く同様である。

以上のとおり、特公事業認定と緊急裁決との間に違法性の承継は認められないというべきである。

(2) 特措法七条四号(緊急性要件)の欠如の主張について

<1> 緊急性の意味について

原告らは、本件第一期事業認定の後、新空港の開港までに約七年半の期間を要したことをもつて、本件第一期事業につき、特公事業認定に必要な緊急性要件がなかつたと主張するが、右緊急性要件の存否は、当然のことながら、本件第一期事業認定時を基準として判断すべきものである。

<2> 羽田空港の処理能力と緊急性について

ア 本件第一期事業認定当時における羽田空港の処理能力は前記1の(三)のとおりである。

イ 羽田空港の発着回数の予測について

(ア) 新空港における国際線発着回数の推定は、東京地区の過去一〇年間における定期便の総発着回数の実績と乗降旅客数の実績とから航空機一機当たりの平均搭乗員数を算出し、新機種の導入計画を考慮した機種別構成比率で修正したうえで、航空機一機当たりの搭乗員数の推定値を求め、これを分母として推定乗降旅客数を割ることにより、発着回数の予測値を推定したものである。この推定は、日本航空及び外国航空会社の就航機材の計画を基にした機材の大型化を加味した機種別構成比率を用いており、極めて妥当なものであつたということができる。

次に、航空機一機当たりの旅客数は、貨物便を含めた航空機一機当たりの旅客数である。ところで、昭和四四年度の国際線における旅客便の一機当たりの旅客数は、同年度の推定旅客数が二〇一万一二〇〇人であるのに対し、同年度の旅客便の推定発着回数が二万八六〇〇回であるから、約七〇人となる。そこで、右の七〇人をDC―8、B―707の機種別座席数である一三〇ないし一五〇人で除してみると、座席利用率(一機当たりの搭乗員数を座席数で除して求められた率)は、四六・七パーセントないし五三・八パーセントとなる。ちなみに、航空輸送統計年報によれば、昭和三八年から昭和四六年までの国際線定期便の座席利用率はおおむね五三パーセントであり、また、日本航空における国際線の座席利用率の実績は、昭和四一年度は五四・五パーセント、昭和四二年度は五四・四パーセント、昭和四三年度は四一・九パーセントであつた。このことからも、公団の推定は妥当であり、故意に航空機一機当たりの搭乗員数を低くしたものではないことは明白である。

また、原告らは、B―747等の座席数をオールエコノミーのものとする前提で主張しているが、そのような航空機は、比較的距離の短い国内線はともかく、国際線用の航空機としてはほとんど使用されておらず、公団の使用した機種別座席数は、国際線に就航し、フアーストクラスが設定されている一般的な機種の座席数である。

(イ) 日本航空では、昭和四一年にB―747の購入契約を締結し、昭和四五年に就航しているが、日本航空の場合でも購入契約から就航まで約四年を要しており、たとえ各航空会社が一斉に大型機の導入を計画したとしても、航空機の製造能力、従来からの保有機の処置等世界の航空事情を考慮すれば、従来のB―707等の飛行機がすべてB―747やエアバスに変わる訳ではなく、本件第一期事業認定当時において、短時日に大型機化が進むことは予想され得なかつたのである。

(ウ) 以上のとおり、B―747等の新機種の導入時期及び機材構成については、日本航空及び外国航空会社の計画に基づいており、発着回数を推定するに際し、導入時期が不当に遅れて評価されたり、搭乗員数が不当に低く押されられた事実はない。

ウ 国際線と国内線との需要の調整の困難性

経済の成長、国際交流の進展、航空機の技術革新等に基づく国際的及び国内的な民間航空輸送に対する需要の増大により、羽田空港における航空機の発着回数は著しく増加し、昭和四五年度においては年間約一六万四〇〇〇回に達し、ほぼ同空港の処理能力の限界に達していた。このため、運輸省は、航空輸送の安全性を確保する観点から、同年八月二一日、昭和四六年九月一日及び昭和四八年一月一日の三回にわたり、各航空会社に対して減便その他諸種の規制を行う非常措置を採らざるを得なくなり、昭和四六年以降は発着回数を一日四六〇回に制限して運用していたが、それでも最大の混雑時には、航空機がほぼ二分に一機の割合で発着するいう混雑な状況となつていた。そして、右の発着回数の制限により、同空港の状況は、潜在需要を含めて急増する航空輸送の需要に対応し得なくなつているので、国内線の枠を国際線に振り向ける余裕がなかつたことは明らかであつた。

エ 羽田空港の拡張について

羽田空港拡張案が採用されなかつたのは、次の(ア)ないし(エ)の理由による。

(ア) 羽田空港を拡張し、羽田沖合に平行滑走路を増設する場合、東京湾における船舶の出入航路は、広範囲にわたつて新空港の進入表面等による制限を受けることになるため、航路移転が必要になり、ひいては東京港の既設施設を大幅に移転する必要が生じかねず、そうなれば、本件第一期事業認定当時実施中の東京港港湾計画が根本的に改定を迫られることが必至であつた。

(イ) 羽田空港を拡張することとした場合、その埋立てが予想された海域の水深は、深いところで二〇メートル以上、平均で一二メートル程度はあつたから、その埋立てに要する土砂は、新空港と同規模で約二億五〇〇〇万立方メートルという膨大な量が予測され、この大量の土砂をどこから採取してくるかが第一に問題であつた。そのうえ、例えそれだけの量の土砂をどこかから採取してくることができたとしても、空港全体の造成経費は、富里案の約八倍掛かると推定された。

また、この埋立工事だけで長年の工期を要すると予測されたが、本件第一期事業認定当時の同空港の緊迫した状況からして、その完成を待つていることは到底できないと考えられた。

さらに、同空港沖合の海底には、数一〇メートルに及ぶヘドロ層が存在していたため、埋立工事に多大の因難が伴うとともに、埋立工事の際、いかに地盤改良に工夫を凝らしたとしても、その当時の技術水準では完成後の地盤沈下は免れず、しかも、不等沈下を起こす可能性があると予想されたため、その維持管理に確信を持てないという問題もあつた。

(ウ) 羽田空港の周辺には臨海工業地帯が控えているため、スモツグが発生することが多く、気象条件からしても、他の候補地と比べてみて難点があつた。

(エ) 羽田空港周辺の環境をみるに、北側及び西側には東京都区内の人口密集地帯があり、西南側には川崎工業地帯があるため、北側及び西側については航空機騒音の問題から、西南側については、航空機騒音問題に加えて、石油コンビナートを抱かえているため、航空機事故発生の際の災害防止の観点から、それぞれ、同空港の出発、進入経路をその方向に採ることができない状態であつた。このため、例えば同空港から北西方向へ飛び立つた航空機(同空港の主滑走路は、東南から北西の方向へ向けて設置されている。)は、離陸直後から人口密集地帯を避けて右旋回を余儀なくされていた。また、ブルー・フオーテイーンが横須賀から荏田、大宮にかけて設置されていたため、空域及び管制上の面からも、西側に同空港の出発、進入経路を採ることは因難な状態であつた。このように、同空港は、出発、進入経路設定において立地条件上著しい制約を受けていた。

ところで、空港を拡張した場合、新滑走路を既存滑走路と独立させて使用できるようにするためには、新滑走路を既存滑走路から十分な間隔を置いたうえ、既存滑走路と平行して設置すると同時に、新滑走路の出発、進入経路を既存滑走路の出発、進入経路と独立させて設定する必要があるのであつて、例えば東側の滑走路については西側に旋回させないような、西側の滑走路については東側に旋回させないような出発、進入経路を、それぞれ設定しなければならないことになる。しかし、同空港の場合には、右に述べた立地条件上、出発、進入経路の設定に大きな制約があり、特に北西側については新滑走路のための独立した出発、進入経路を設定することは因難であるため、新滑走路を設置することによつて得られる発着処理能力の向上は、同空港の当時の発着処理能力であつた年間一七万五〇〇〇回の約三〇パーセントと予測されるに過ぎず、その効用は、せいぜい発着の時間的間隔を若干短縮できる程度であり、同空港を拡張しても発着処理能力向上の点から効率が悪いといわなければならなかつた。

なお、新空港程度の規模(主滑走路二本)を羽田沖に拡張したとしても、一本の滑走路を新設した場合より多少発着処理能力が増す程度と予想され、また、それ以上の滑走路を有する規模の拡張をしたとしても、右に述べたような羽田空港が有する本質的な制約が解消されないかぎり、新空港に要求される発着処理能力が実現されることは不可能であつた。

以上のとおり、羽田空港拡張案には種々の障害があつたとともに、これによつても将来予測された航空需要を到底まかなうことはできなかつたものであり、それ故採用されなかつたのである。

オ 空港整備、管制方式の技術的改善と緊急性について

原告らは、システムとしての機能を考慮に入れずに駐機スポツトを設定したり、管制方式を旧来のままにしていることから、羽田空港の過密現象が発生するのであり、エリア・ナビゲーシヨン・システム、ARTSIIIシステムの導入等管制方式の技術的改善により、同空港の発着処理能力が向上する旨主張する。

しかし、羽田空港の発着回数の制限措置は、空港需要の増大に伴い、同空港の物理的処理能力が限界に達したため実施したものである。また、エリア・ナビゲーシヨン・システムは、航空機にコンピユーターを持つた航法装置を装備して、VOR(超短波全方向式無線標識施設)/DME(距離測定装置)(航空機に方位情報を堤供するVORと距離情報を提供するDMEとを組み合わせて設置した施設)が提供する位置情報を処理することにより、航空機が、現在一般的に行われているVOR/DMEを結んだ直線コースを航行するという航法によらず、VOR/DMEのカバレージ・エリア(覆域、電波の有効通達範囲)内の任意のコースを航行することを可能とするものであるから、最終進入経路に入る直前までの段階においては有効であるといえるが、滑走路末端に接続する最終進入経路は、各空港の立地条件を考慮し、空港に向かつて進入してきた航空機が安全に着陸できるように、その進入角度、降下角度とともに適切なものが設定されることとなつているため、同システムを採用したとしても、任意に最終進入経路を設定することが可能となるというものではない。そして、羽田空港は、出発、進入経路の設定上制約があるから、同空港において同システムを採用したとしても、発着処理能力の向上が図られるというわけではない。

また、ARTSIIIシステムは、空港に設置された監視用レーダーとこれに併設する二次レーダーによつて、トランスポンダー(航空交通管制用自動応答装置)を装備した航空機の識別、位置、高度等の情報を得て、これをコンピユーターによつて処理し、航空機の識別、位置、高度等をレーダースコープに表示するシステムである。すなわち、このシステムは、レーダースコープ上に表示された航空機の識別、位置、高度等の情報を管制官が目視しつつ管制を行い、余裕を持つて管制指示を与えることを可能とすることにより、飛行場周辺の空域における航空交通の安全性の向上を図ることを目的としたものである。しかし、空港の発着処理能力を決定するのは滑走路の数、配置であつて、羽田空港に右システムを導入したからといつて、同空港の発着処理能力の向上が図られるというものではない。

なお、ARTSIIIシステムは、米国においてすら本件第一期事業認定の後になつてようやく実用化されたもので、いわんや右認定当時、我が国においてはその導入を具体的に云々できる段階ではなかつた。

カ 以上のとおり、本件第一期事業認定当時、羽田空港の処理能力は限界に達していたものであり、同空港のほかに国際空港を建設する必要性、緊急性があつたといえるから、本件第一期事業は、特措法二〇条四号の緊急性要件を満たすものであつたのである。

キ 最後に、本件第一期事業認定以降新空港開港までの羽田空港の状況について述べると、同事業認定時において既に新空港の必要性は緊急なものであつたが、反対同盟の妨害等により新空港の開港が遅れ、航空需要は確実に伸びているにもかかわらず、羽田空港の発着処理能力に限界があるため、一日の発着回数は、昭和四六年当時と同様四六〇回に制限されていた。これによつて滞在的な航空需要を無理に抑え、我が国の経済に重大な支障を与えていたことは明らかである。そして昭和五二年当時、我が国への新規乗り入れを希望していた外国の航空会社は、アフガニスタン、チエコスロバキア、ブルガリア等三二か国に及んでいたが、同空港の能力不足のため、これら各社の乗り入れを拒否していた状況であり、このような事態が我が国の国際的信用にかなりの悪影響を与えていたことは、容易に推測し得るところであつた。そのほか、同空港には、航空機の夜間停留を行うための駐機スポツトが少ないため、本来なら同空港で夜間停留を行う航空機を、わざわざ夜間停留だけを行わせるために福岡空港や千歳空港に回航させたりしており、このような羽田空港の輻輳状況のため、航空管制官などにかなりの神経を使わせていたのである。

なお、同空港における昭和四六年以降の発着回数の減少については、超大型機の導入が原因ではなく、同空港の混雑を緩和するための緊急指示(前記1の(三)の(1)の<5>)によるものであり、このことはとりもなおさず、新空港の設置の必要性を示すものにほかならないものであり、また、本件第一期事業認定時以降において、大型機の導入が大方の予想を上回つて進められたのは、いわゆるオイル・シヨツクによる航空燃料の高騰、従来機種の騒音規制あるいは便数規制が原因となつたことは航空界の常識である。

<3> 航空燃料輸送問題と緊急性

被告大臣は、本件第一期事業認定当時、航空燃料輸送に関し、公団から送油用パイプラインを設置する土地については任意に取得するとの説明を受けていたほか、タンクローリー車等による燃料輸送方式も可能であつて、必ずしも航空燃料輸送において送油用パイプラインの設置が必要不可欠なものではないと判断していた。そして、右判断には、誤りはないから、同事業認定当時、航空燃料輸送を確保する見通しがなかつたとは到底いえないのである。

なお、新空港の関港に当たつての航空燃料の確保については、貨物列車を使用して茨城県鹿島の石油コンビナートから成田駅までを輸送する等により対処することができたのである。

<4> 空港への交通手段の確保と緊急性

本件第一期事業認定当時、以下アないしウのとおり、新空港の開港の時点でその交通需要をまかなうに足りる道路及び鉄道の計画が樹立されており、それらの交通機関を利用することにより、都心から一時間で同空港との間を結ぶことができるとされていた。

ア 道路利用の場合には、首都高速六号線―同七号線―京葉道路―東関東自動車道―新東京国際空港線を経由する方法であり、このルートによれば、道路距離で約六六キロメートルとなり、所要時間は約六〇分と予測されていた。なお、右道路のうち本件第一期事業認定時点で既に供用されていたのは京葉道路だけであつたが、残りの首都高速六号線、同七号線、東関東自動車道及び新東京国際空港線についても、新空港供用開始までには供用される予定で、当時着工されていたのである。また、将来の交通量の増加に対しては、東京湾の埋立計画に伴う東京湾岸道路を経由して首都高速九号線により都心とを結ぶルートが、建設省によつて昭和三七年度から調査、計画されていた。

イ 鉄道利用については、京成電鉄が、本件第一期事業認定当時、運輸大臣に対し、京成成田駅から新空港までの約七キロメートルの区間について路線免許の申請をしており、これが完成すると、上野又は銀座から同空港まで一時間で連絡が可能とされていた。そして、右区間の鉄道建設工事は、同事業認定前の昭和四五年一一月二〇日に着工されていた。

このほか、都心と新空港とを連絡する鉄道としては、同事業認定当時、新幹線方式の高速鉄道(成田新幹線)についても検討されていたのである。

ウ このように、都心から約一時間で新空港との間を結ぶことについては、本件第一期事業認定当時の右ア及びイの計画の内容及びその実現性に合理的な見通しがあつたというべきであるから、交通手段の確保について見通しがなかつたなどとはいえない。そして、その後において成田新幹線の建設が遅延しているとしても、それは同事業認定の効力に何ら影響を与えるものではない。

なお、現在、鉄道については京成電鉄のスカイライナーが新空港と都心間を約六〇分で連絡しており、道路についても右アの道路はすべて供用されており、同空港と都心を結ぶ高速バス(リムジンバス)は、事故等不測の事態が発生しない限り、最も混雑する時間帯でも、同空港方向は約六〇分、都心方向は約六五分で連絡している。このことは、同事業認定時における前記予測が正しかつたことを裏付けるものである。

<5> 騒音問題と緊急性

新空港に係る騒音対策については、その位置決定に際し、強力に推進することが閣議決定されていた。また、公団においても、右閣議決定及び「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(昭和四二年法律第一一〇号)の定めに基づき、本件第一期事業認定当時には、既に教育施設等の防音工事、民家等の移転補償、騒音測定施設の整備等を実施しており、その後も引き続き対策が採られることは明白であつた。

<6> 空域確保と緊急性

新空港の設置に当たつては、同空港で発着する航空機の航行の安全を確保するため、空港周辺の上空に管制圏、出発経路、侵入経路及び待機経路のための空域を、隣接する空港のためのこれらの空域及び航空路とは競合することなく設定することができる場所であることを要することから、専門的な見地から検討が行われ、その結果、新空港を三里塚に設置しても同空港、羽田空港及び百里飛行場にそれぞれ必要な空域が確保され、これらの空港、飛行場につき安全かつ円滑な航空管制が確保されることが明らかになつていた。

しかも、新空港の開港に当たり、それぞれの空域の分離が行われており、現在安全に運行されている。なお、百里飛行場からのジェット戦闘機の緊急発進については特別の飛行ルートが設定されているので、成田空域内を飛行する航空機との接触等が発生するようなおそれは皆無である。

<7> 航空保安施設用地の確保と緊急性

飛行場建設事業と航空保安施設建設事業とは、別個の事業としてそれぞれ収用事業及び特公事業認定の対象になり得ることは、収用法及び特措法上明らかであるから、飛行場建設事業の収用事業認定に当たり、航空保安施設の建設事業についても収用事業認定を受けなければならないものではない。

被告大臣は、本件第一期事業認定当時、公団から航空保安施設用地については任意に取得する旨の説明を受けていた。原告らは、同事業認定後に行われたA滑走路の進入灯及びミドルマーカーを第一期工事区域内へ設置したことを取り上げて、同事業認定の違法を主張するが、右事実は同事業認定後の事情であり、同事業認定の適否とは無関係の事柄である。

なお、A滑走路の進入灯及びミドルマーカーが第一期工事区域内に設置されたのは、右進入灯及びミドルマーカーの設置予定地の一部が、新空港建設反対運動等により未買収になつていたため、臨時に移設されているだけのことであつて、将来公団が右設置予定地を取得したときには、当初計画の位置に設置されることになつており、また、現在、右設置予定地の買収の進捗に応じて、正規の進入灯設置工事が進められている。

(一〇) 特公事業認定における手続上の違法の承継の主張(請求原因3の(一〇))について

(1) 特公事業認定上の違法性が本件緊急裁決に承継されないことは、前記(九)の(1)のとおりである。

(2) 仮に特公事業認定の違法性が本件緊急裁決に承継されるとしても、次の<1>ないし<3>のとおり、本件第一期事業認定において、収用法三九条一項を適用したことに手続上違法はない。

<1> 特措法は、収用事業のうち公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業の円滑な遂行と、土地等の取得に伴う損失の適正な補償の確保を図ることを目的として(同法一条)、これらの事業に必要な土地等の取得に関し、収用法の特例を設けているが、既に同法二〇条の規定による収用事業の認定を受けている事業についても、それが特措法七条各号の要件を満たすものである限り、被告大臣において重ねて同条の規定による特公事業の認定をすることができることを認めており、その場合においては、特公事業の範囲は収用事業の範囲と完全に一致することを要せず、収用事業の一部について特公事業の認定をすることも許されると解すべきである。すなわち、収用事業の一部だけが、特措法において加重された「公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであること」という要件(同法七条四号)を充足している場合があり、そのような場合については、特公事業の認定をして当該事業の施行の促進を図る必要性があることが明らかであるから、収用事業のうち右の要件を充足している部分に限つて特公事業の認定をすることは、特措法の立法趣旨に合致するものというべきである。このことは、特措法の規定の文言自体によつてみても、例えば、同法三九条一項において「土地収用法第二〇条の規定による事業の認定を受けている事業……に係る特定公共事業の認定については……」と規定していて、「土地収用法第二〇条の規定による事業の認定を受けている事業……と同一の事業についてする特定公共事業の認定については……」とのように限定していないことから見ても、明らかである。

<2> 本件第一期事業の特公事業認定申請は、既に収用事業認定を受けた本件事業の一部に係る事業に関するものである。このように収用事業認定を受けている事業につき特公事業認定を申請する場合、被告大臣は、特措法七条四号の「事業が公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであること」を充足することを新たに認定しなければならないが、そのためには、先行する収用事業認定の手続において得られた資料のほかに、当該事業を緊急に施行するすることを要する理由についての資料を得る必要がある。そこで、特措法は、当該事業について迅速な収用手続を採る必要があるか否かについては、起業者が特公事業認定申請書の記載事項(同法四条一項四号)として説明するところによつて判断することとし、また、これに対する住民の意見については、右申請書の添附書類である経過説明書(同法四条二項七号)に記載された起業者による説明及び意見聴取の措置を通じて把握することとしている。このように、被告大臣は、収用事業認定を受けている事業については、特公事業認定申請書及びその添附書類の記載によつて、当該申請に係る事業が特公事業の認定要件を充足するか否かを判断するに必要かつ十分な資料を得ることができるのである。したがつて、特公事業認定手続において、当該事業が既に収用事業認定を受けているときには、その際に履行された収用法二一条ないし二五条に規定する手続を重ねて採る必要はもはやないから、特措法三九条一項はこれらの手続を省略する旨規定したものである。

また、特措法三条一項は、起業者が特公事業認定を申請しようとする場合には、同事業を施行しようとする土地及びその付近の住民に、あらかじめ、事業の目的及び内容並びに事業を緊急に施行することを要する理由を説明し、これらの者から意見を聴取する等の措置を講ずることにより、事業の施行についてこれらの者の協力が得られるよう努めるべきことを義務付けており、同法一〇条一項は、建設大臣が特公事業認定をしたときには、遅滞なく、起業者の名称、事業の種類、起業地及び収用法二六条の二の規定による図面の縦覧場所を官報で告示すべきことを定めており、このような制度からすれば、関係権利者は、収用事業認定の場合と同様に、特公事業の認定についても知り得る機会を保障されているというべきである。

本件事業認定に際しては、前記2の(一)の(2)のとおり、収用法所定の公告、告示、縦覧等が経由され、起業地内の関係権利者は、本件事業の内容を確知し得たものである上、本件第一期事業が特公事業認定される際にも、公団は、昭和四五年一〇月一六日、成田市において地元住民に対する本件第一期事業の説明会を開催し、これに参加した住民に起業地の範囲を表示した図面を含む説明資料を配布するとともに、これに参加しなかつた住民のために、新聞折り込みによつて同資料を配布し、さらに、成田市役所及び芝山町役場において同資料を掲示していた。また、被告大臣は、特措法一〇条に基づき、同年一二月二八日付け官報において、同事業認定の告示をするとともに、同日付けで成田市などの関係市町の長に右認定をしたことを通知し、併せて同事業の特公事業認定申請書の添附書類を送付して、同添附書類のうち起業地を表示する図面が公衆の縦覧に供されるよう措置した。これにより、右起業地を表示する図面は公衆の縦覧に供されたのであり、原告ら起業地内の関係権利者は、同事業認定にかかる土地の範囲を知り得る機会は十分に与えられていたということができる。

<3> なお、収用法による土地の保全義務(同法二八条の三)、土地物件調査(同法三五条)、裁決申請請求権(同法三九条)等の効果は、そもそも同法による収用事業認定及びその告示によつて生じるものであり、収用事業について更に特公事業の認定をしても、同認定によつて被収用者に対し特別な効果が新たに生じるものではないから、特公事業の認定に係る起業地の範囲を正確に知ることができなくても、被収用者の利益を害するものとはいえないのである。したがつて、この点においても、右<2>の各措置が採られた本件第一期事業認定手続において、原告らの同事業認定を知る機会及び同事業認定手続上の防御権を害する違法はなかつたというべきである。

4  本件裁決の適法性について

本件裁決は、前記2の(三)の経緯のとおり適法に行われたものであり、原告らの主張する違法事由は以下のとおりいずれも失当である。

(一) 審理不尽の違法の主張(請求原因4(一))について

(1) 口頭意見陳述の機会を与えない違法の主張(請求原因4の(一)の(1))について

被告大臣は、本件裁決の審理において、前記2の(三)の(5)及び(6)のとおり、審査請求人(原告ら)、及び同代理人らに対し、昭和五四年八月一四日付けで同月三〇日を、同年九月一三日付けで同月二九日を、それぞれ口頭意見陳述期日として指定し、その機会を付与しているのであり、両期日とも二週間ほどの余裕をもつて、事前に、審査請求人代理人に通知しているのである。しかるに、審査請求人は、第一回の期日においては都合がつかないことを理由に出頭せず、また、第二回の期日においては裁決資料等の閲覧の要求を繰り返すのみで、口頭意見陳述をしない旨表明したので、それ以上口頭意見陳述の機会を与えなかつたのである。このように、審査請求人は、口頭意見陳述の機会を適法に付与されたにもかかわらず、その権利を行使しなかつたものであつて、被告大臣の措置には、何ら違法な点はないというべきである。

(2) 弁明書を提出させなかつた違法の主張(請求原因4の(一)の(2))について

行服法二二条一項は、審査庁が処分庁に弁明書の提出を求めるか否かを、審査庁の裁量に任せているのであつて、審査庁には審査請求人の要求により弁明書の提出を求める義務を負うことはない。

被告大臣は、被告委員会に対し、昭和五四年三月一四日付けで弁明書の提出を求め、その提出を受けていたところ、原告ら主張の二通の審査請求補充書(同年五月二九日付け及び同年七月一二日付け)に述べられている審査請求の理由については、法律の解釈に係るもの及び既に被告大臣において把握ずみの事実に係るものであつて、被告委員会に対し再度弁明書の提出を求める必要がないと判断して、提出を求めなかつたのであり、右の措置に何ら違法はない。

(3) 行服法三三条二項違反の主張(請求原因4の(一)の(3))について

被告大臣は、審査請求人(原告ら)が裁決資料等の閲覧を行つた時期において、行服法三三条一項の規定に基づいて被告委員会から提出されていた本件緊急裁決の理由となつた事実を証する書類その他の物件はすべて閲覧に供しており、閲覧を制限したことはない。

(二) 理由記載不備の違法の主張(請求原因4の(二))について

行服法四一条一項が裁決に理由附記を要求しているのは、審査庁の判断の慎重、公正を保障するとともに、審査請求人に審査庁が下した判断に達した理由を了知せしめて、審査請求の当否についてさらに再考する機会を与え、不服であるとして訴訟で争う者については争点を明確にさせるという趣旨である。

本件裁決に附記された理由は、審査請求人である原告らの審査請求理由に対応する形で争点を個別的に明示し、それぞれについて請求人の主張を採用しない理由について、具体的かつ明確に示しているものであつて、右の趣旨に照らしても、本件裁決の理由附記の程度は十分であり、理由記載不備の非難を受けるいわれはない。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1の事実はいずれも知らない。新空港建設の必要性の存在については争う。

2  同2について

(一) (一)の(1)は、<1>の事実は知らず、<2>は、航空審議会が運輸大臣からの諮問に対して航空管制、気象条件、工事上の問題、都心との連絡などの立地条件を検討したことは知らず、その余の事実は認め、<3>は、新空港の候補地について政府部内で検討が続けられたこと及び同空港の位置を最終的に閣議決定するに当たり被告ら主張の三つの観点が考慮されたことは知らず、その余の事実は認め、<4>、<5>の事実は認め、<6>は、新空港の工事実施計画の変更が国際線貨客の処理能力を増大を図るとともに、段階的建設に適するようターミナルの形式を変更するためであつたことは知らず、その余の事実は認める。

同(2)は、<1>の事実は知らず、<2>は、公団が反対同盟に属する土地所有者と買収交渉することが全く不可能な情勢に立ち至つたこと及び公団が右の者から土地を買収できる見込みがなかつたことは否認し、その余の事実は認め、<3>は、公団が新空港用地の取得が困難となり、昭和四四年九月一三日、被告大臣に対し、本件事業につき収用事業認定申請をしたことは認め、その余の事実は知らず、<4>は、被告大臣が本件事業認定を行い、昭和四四年一二月一六日付けでその旨告示したことは認め、その余の事実は知らない。

同(3)は、<1>の事実は認め、<2>は、第一段の事実は知らず、第二段は、意見書提出者数が七七六人であること及び意見書提出者のうち公団から収用裁決申請又は申立てのあつた関係権利者の中にみあたらない者が六八七人であること、確認書の提出者数が一三四〇人(延べ一四四九人)であることは知らず、その余の事実は認め、第三段は、確認書により関係人として申立てのあつた者が一三四〇人であること、被告委員会が第一次申請分につき五回の審理及び一回の現地調査を行つたことは知らず、その余の事実は認め、第四段の事実は認め、<3>は、第一段の事実は知らず、第二段は、第二次ないし第四次申請に係る意見書提出者数は知らず、その余の事実は認め、第三段は、確認書の提出者数は知らず、その余の事実は認め、第四段の事実は認め、<4>は、第一段のうち、昭和四五年一二月までに被告委員会が行つた収用裁決が第一次申請分に係る六件六筆に過ぎなかつた理由が、反対同盟に属し又はこれに同調する者の組織的な防害活動等によるものであること、第二段のうち、本件事業のうち第一期施設に係るものにつき緊急に施行することを要したということは否認し、その余の事実は認め、<5>は、被告大臣が、本件第一期事業認定を行い、昭和四五年一二月二八日付けでその旨告示をしたことは認め、その余の事実は知らず、<6>の事実は知らず、<7>の事実は認める。

(二) (二)の(1)ないし(3)、(6)及び(9)の事実は知らない。(4)の第一段の事実は知らず、(4)のその余並びに(5)、(7)及び(8)のうち、第一回ないし第四回の審理が被告ら主張の日に千葉県総合運動場体育館において開催されたことは認めるが、その審理状況が被告ら主張のようなものであつたことは争う。(10)は、被告委員会が被告主張の内容の判断をしたことは認めるが、その判断理由の妥当性は争う。(11)及び(12)の事実は認める。

(三) (三)の事実は認める。

3  同3について

(一) 冒頭部分は争う。

(二) (一)は争う。

(三) (二)は争う。

(四) (三)は、本件第一期事業が、本件事業のうち、四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設(第一期施設)の建設を対象とする事業であること、新空港の工事実施計画の認可において、本件第一期事業にかかる第一期施設の工事の完成期日がその他の諸施設(第二期施設)とは別途区別して定められていることは認めるが、その余は争う。

(五) (四)の(1)は争う。

同(2)は、本件第一期事業が、本件事業のうち、第一期建設工事として四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設(第一期施設)の建設を対象とする事業であること、本件第一期事業は、特措法七条に基づき特公事業認定がされ、昭和四五年一二月二八日付けでその告示がされたものであることは認め、その余は争う。

同(3)は争う。

同(4)の<1>は、本件両土地が新空港の構内道路建設予定区域に所在することは認め、その余は争い、<2>のアは、本件一二番地が水田として利用されていたことは認め、その余の事実は知らず、イは、本件一八番地の地目が宅地であること、同土地はよねの住居用として使われていたことは認め、その余の事実は知らず、<3>の事実は知らない。

同(5)、(6)は争う。

(六) (五)は争う。

(七) (六)は、本件緊急裁決が特措法二〇条四項の適用を受けるものであること、本件一八番地に対する補償は仮補償金とされ、一括して供託されていることは認め、その余は争う。

(八) (七)は、よねが仮住居の提供による補償を要求しなかつたことは認め、その余は争う。

(九) (八)はすべて争う。

(一〇) (九)の(1)は争う。

同(2)の<1>は争い、<2>のアは知らず、イは、(イ)のうちの日本航空では昭和四一年にB―747の購入契約を締結し、同機は昭和四五年に就航していることを認め、その余は争い、ウは争い、エのうち、羽田空港拡張案が採用されなかつた理由が被告主張の四つの理由であることは認め、その妥当性を争い、オないしキは争い、<3>ないし<7>は争う。

(一一) (一〇)は争う。

(一二) 本件緊急裁決の違法性については請求原因3で主張したとおりである。

4  4はすべて争う。本件裁決の違法性については請求原因4で主張したとおりである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(原告らの地位)、同2(行政処分の存在)の事実は当事者間に争いがない。

そこで、原告らの請求の当否につき、その主張する違法事由の順に従つて検討する。

二  本件緊急裁決について

1  収用法及び特措法の違憲性(請求原因3の(一))について

(一)  収用法七一条の違憲性について

(1) 原告らは、収用法七一条は憲法二九条三項に違反して無効であるから、収用法七一条を適用して行われた本件緊急裁決は違法であると主張する。

(2) 憲法二九条三項に定める正当な補償とは、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくするような補償を意味するものであつて、土地の収用に関して金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金銭の補償を要するものと解すべきである(最高裁昭和四八年一〇月一八日判決・民集二七巻九号一二一〇頁参照)。

収用法は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用に関し、公共の利益の増進と私有財産の調整を図り、国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的として、収用の要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償について規定する法律であるところ(同法一条参照)、同法七一条によると、収用される土地又はその土地の所有権以外の権利に対する捕償金の額は、収用事業認定告示の時における相当な価格(事業認定時価格)を基準とすることとされているのである。しかしながら、右にいう相当な価格とはもとより、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地を取得するに足りる価格をいうものと解されるのであり、被収用者は、右告示後は権利取得裁決前であつても、補償金の支払を請求することができ(同法四六条の二)、右請求があつたときは、起業者は右請求があつた日から原則として二か月以内にその見積額を支払わなければならず(同法四六条の四)、右見積額を支払時期に応じ修正した額が裁決による補償額より低いときや支払期限を遅滞したときは、後に収用委員会が権利取得裁決において正当な補償額を裁決する際に、その差額や遅滞した額について六・二五パーセントないし一八・二五パーセントの高率の加算金を加えることとされているのである(同法九〇条の三)から、被収用者は、経済的には近傍において被収用地と同等の代替地を取得し得る機会を与えられているということができるし、また、同法七一条によると、補償金の額は、事業認定時価格に固定するわけではなく、権利取得裁決までの物価の変動に応ずる修正率を乗ずることとされていることを併せ考えると、収用法七一条が憲法二九条三項に違反するものということはできない。

なお、原告らの生活補償に関する主張は、憲法二九条三項の正当な補償の内容として、財産の交換価値を中心とした補償のみでは従来の生活を維持することができない場合、生活権保障の観点から補償を加算すべきであるとの趣旨の主張と解されるが、憲法二九条は、私有財産を財産権として、すなわち経済的な交換価値として保障しようとする規定であつて、右の保障を通じて非財産権的性格を有する生活権が保障されることがあるにしても、生活権を直接保障する規定ではないから、右主張はこれをそのまま採用するわけにはいかない。

(二)  特措法二一条一項の違憲性について

(1) 原告らは、特措法二一条一項は憲法二九条三項に違反して無効であるから、特措法二一条一項を適用して行われた本件緊急裁決は違法であると主張する。

(2) 私有財産の収用に関して規定する憲法二九条三項はその補償の支払い時期については何ら規定していないし、他にこれを規定した憲法の規定は見当たらず、したがつて、憲法がいかなる場合でも常に収用の前又は収用と同時に損失補償をしなければならないとの建前をとつているとは解されない。緊急裁決は、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業に必要な土地を取得するため(特措法一条、七条四号)、明渡裁決が遅延することによつて右事業の施行に支障を及ぼすおそれがある場合に認められるものであるが(同法二〇条一項)、その緊急性のゆえに、補償については仮補償金という暫定的措置によつて行うことができるとしているのである。すなわち、同法二一条一項によると、緊急裁決においては、損失の補償に関するものについては、その裁決をするときまでの資料で裁決すれば足り、その場合に、損失の補償をすべきではあるが、損失の方法又は金額について審理を尽くしていないときは、概算見積りにより仮補償金が定められることとなつている。そして、起業者は被収用者に対し、権利取得裁決で定められた権利取得の時までに、この仮補償金を払い渡さなければならず(同法二七条、収用法九五条一項)、収用委員会は緊急裁決の後引き続き審理し、遅滞なく本来の補償裁決をしなければならないのであつて(特措法三〇条一項)、その補償裁決における補償金額が仮補償金の額を上回るときは、起業者はその差額のほかにこれにつき年六分の割合による利息を支払わなければならないものである(同法三三条二項)。さらに、収用委員会は、緊急裁決をする場合において、右の最終的な補償義務の履行を確保する必要があると認めるときは、起業者に対して担保の提供を命ずることができ(同法二六条一項)、また、被収用地上の建物の居住者は、仮住居の提供による補償を要求することもでき(同法二三条、二九条)、その他被収用者の保護のため現物給付(同法四六条)、生活再建等のための措置(同法四七条)を求めることができることとされている。これらを併せ考えると、特措法二一条一項の仮補償金による補償によつて行われる緊急裁決制度が憲法二九条三項に違反するものということはできない。

(3) 緊急裁決のうち、仮補償金については、損失の補償に関する訴えを提起することができないとされている(特措法四二条三項)。しかし、仮補償金による緊急裁決については、その後に、遅滞なく損失補償についての補償裁決が行われ(同法三〇条一項)、仮補償金との差額が清算される(同法三三条)ことになつており、右補償裁決に対しては当然訴えを提起することができるのであるから、暫定的措置である仮補償金について訴えを提起できないとしても、これをもつて、裁判を受ける権利(憲法三一条)が害されているものとはいえない。

(4) なお、本件においては、昭和四六年六月一二日付けで本件緊急裁決が行われたが、昭和五五年一一月の時点においても未だ補償裁決が行われていないことは当事者間に争いがなく、補償裁決が実際には遅滞なくされてはいないものということができる。しかしながら、このことは、前記(2)の緊急裁決制度が一般的に憲法二九条三項に違反するとの根拠とはなり得ないのみならず、本件緊急裁決を違法とする事由であると解することもできない。

(三)  そうすると、請求原因3の(一)の主張は失当である。

2  憲法二五条、三一条違反(恣意的申立てを受理した違法。請求原因3の(二))について

(一)  収用法及び特措法は、起業者が緊急裁決の申立てに当たり、未買収地の全部又は一部、あるいは起業地内のいかなる土地について申立てを行うかに関する基準、要件等を定める規定を特に置いておらず、いかなる土地について緊急裁決の申立てをするかについては、起業者において任意になし得るものと解される。したがつて、起業者が恣意的に収用目的以外の目的で緊急裁決の申立てを行うなどその与えられた緊急裁決申立権を濫用していると認められる特段の事情があるときは格別、そうでない限り、当該申立てが違法となることはないというべきである。

(二)  しかるところ、本件緊急裁決の申立てを行うに当たり、公団がよねの関係する土地のうち本件両土地のみをその対象地とし、二四番地をその対象地からはずしたことについて、右(一)で述べた特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、成立に争いのない乙第二二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三一、第四七、第一九五号証、証人西田繁行の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の二、第八号証の二、四、第九号証の二、三、証人中村有伯の証言及び弁論の全趣旨により昭和四六年四月ころに松沢房治が撮影した本件第一期事業の起業地の写真であると認められる乙第一〇号証の一、二、本件一二番地の写真であることにつき争いがなく、同証言により括弧内の日ころに公団の職員が撮影した写真であると認められる乙第六一号証の一(昭和四六年二月一二日)、第六二号証の一(同年五月二六日)、第六三号証の一(同年八月一四日)、本件一八番地の写真であることにつき争いがなく、同証言により括弧内の日ころに公団の職員が撮影した写真であると認められる乙第六一号証の二(同年二月一二日)、第六三号証の二(同年八月一四日)、本件一八番地の写真であることにつき争いがなく、弁論の全趣旨により同年五月二六日ころに公団の職員が撮影したものと認められる乙第六二号証の二、証人横井一仁、同石井武、同中村有伯の各証言、原告小泉英政本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せ考えれば、本件両土地及び二四番地は、いずれも第一期工事区域内に所在する土地であり、昭和四五年には、本件事業に関して別表一のとおり収用裁決申請が行われ、本件一二番地は第二次申請に、本件一八番地は第三次申請に、二四番地は第五次申請に含まれていたこと(ただし、以上の事実は当事者間に争いがない。)、右三筆の土地は互いに隣接した土地ではなく、一団の土地を形成しているものではないこと、公団は、右収用裁決申請後、二四番地の所有者である藤崎勘司との間で買収交渉を行い、同人から任意買収に応じることの約束が得られたため、本件緊急裁決の申立ての対象地に同土地を入れなかつたこと、一方、本件一二番地について賃借権を有し、本件一八番地について使用借権に基づき同土地上に建物を所有して居住していたよねが本件第一期事業に反対していた等の事情から、本件両土地の所有者である岩沢真治は容易に任意買収に応じない状態にあつたこと、本件一二番地は谷地田と言われている軟弱地盤の低地であり、本件一八番地は谷地田部分に接する南傾斜地であり、いずれも新空港の敷地造成予定高の標高四一メートルより相当低い場所にあり、第一期施設の工事工程上、最初に着手される地盤改良工事及び盛土工事を施工することが必要な土地であつたこと、二四番地は新空港の敷地造成予定高とほぼ等高であり、地盤改良工事及び盛土工事をする必要のない土地であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定によれば、本件両土地と二四番地とは、一団の土地ではなく、本件両土地は、第一期施設の工事工程上早期に取得し、早期に着工する必要のある土地であるのに、未だ任意買収の見込みが立つていなかつたが、これに対し、二四番地は、本件両土地と比較すれば、土地取得の時期及び工事工程上の順序からいつて緊急に取得する必要性がより少なく、しかも、任意買収の見込みが立つていたのであるから、緊急裁決の申立てにおいて、本件両土地と二四番地とを同列に扱う必要がないことは明らかであつて、公団が本件緊急裁決の申立てにおいて本件両土地のみをその対象地とし、二四番地をその対象地に入れなかつたことには、合理的な理由があつたものというべきである。

(三)  そうすると、公団が行つた本件両土地に関する本件緊急裁決の申立てが恣意的申立てであることを前提とする請求原因3の(二)の主張は、その前提を欠き失当である。

3  収用法四七条違反(請求原因3の(三))について

(一)  原告らは、本件両土地の収用裁決申請に係る本件事業の事業計画と本件第一期事業の事業計画とが著しく異なり、収用法四七条二号に該当すると主張する。

(二)  本件事業が別紙三記載の内容の事業であること、本件第一期事業が本件事業のうち別紙四記載の内容の事業であることは当事者間に争いがなく、これによれば、本件第一期事業が本件事業のうちの一部をなす事業であることは明らかである。また、別表一のとおり、本件事業における収用裁決申請が行われていて、本件緊急裁決の申立ては、第二次ないし第四次申請に係る土地のうち第一期工事区域の中の土地(本件両土地を含む。)に関してされたものであること、右申請に係る事業計画が本件事業のそれ(別紙三)であり、本件の特公事業認定申請書に添附された事業計画書に記載された事業計画が本件第一期事業のそれ(別紙四)であることは当事者間に争いがない。

(三)  特公事業について特措法一九条により読み替えられる収用法四七条二号で比較されるのは、「申請に係る事業計画」である収用等裁決申請に係る事業計画と特措法四条二項一号の規定によつて「事業認定申請書に添附された事業計画書に記載された計画」である特公事業認定を受けた事業計画とである。

右(二)によれば、本件両土地に関しては、「申請に係る事業計画」は本件緊急裁決申立てがされた本件の収用裁決申請(本件一二番地については第二次申請、本件一八番地については第三次申請)に係る事業計画である本件事業のそれであり、特措法四条一項二号の規定によつて「事業認定申請書に添附された事業計画書に記載された計画」は本件第一期事業のそれであるということができる。

そうすると、本件両土地に関しては、収用法四七条二号で比較されるのは、本件事業の事業計画と本件第一期事業の事業計画とであるが、本件第一期事業が本件事業のうちの一部の事業であり、本件両土地が本件第一期事業の起業地(第一期工事区域)の中に存在しているから、このような場合には、本件事業のうちの一部である本件第一期事業に対応する事業と本件第一期事業とを比較すれば足りるというべきである。

そこで検討するに、前掲甲第三一号証、乙第二二号証、成立に争いのない甲第二二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、二、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第四号証の一によれば、本件事業の施設及び区域の概要は別紙五「新東京国際空港計画平面図」記載の内容のものであること、本件第一期事業の施設及び区域の概要は、別紙五の図面中赤線で囲まれた部分であつて、本件事業の施設及び区域のうちのそれに対応する施設及び区域と全く同一であること、また、その他の事業計画の内容についてみても、本件事業のうちの本件第一期事業に対応する事業の事業計画の内容は、本件第一期事業の事業計画の内容と同一であることが認められるから、本件では、収用法四七条二号により比較するべき事業計画は同一のものということができ、本件の収用裁決申請が同号に当たるとは到底いえない。

(四)  そうすると、請求原因3の(三)の主張は失当である。

4  特措法二〇条一項違反その一(請求原因3の(四))について

(一)  原告らは、緊急裁決の申立てがあつた場合、収用委員会は前提問題として特公事業認定の要件である事業の緊急性の有無について判断する必要があるとし、本件緊急裁決申立てにおいては、(i)土地の取得以外の事業の進行状況として新空港の航空燃料輸送の確保の見通しとの関連、(ii)事業の施行上不可欠である起業地以外の任意買収により取得することとされている土地の取得状況及びその土地に対する工事の進捗状況として航空保安施設用地の取得の見通しとの関連、(iii)緊急裁決の申立てに係る土地意外の起業地内の土地の取得状況との関連、以上の事項について判断すべきであると主張する。そして、右(i)、(ii)の事項が特公事業認定である第一期事業認定の要件に、右(iii)の事項が本件緊急裁決の要件にそれぞれ関わるものであることはその主張の内容から明らかである。

(二)  まず、右(i)、(ii)の事項に係る主張につき検討するに、後記9の(一)のとおり、緊急裁決の取消訴訟において、特公事業認定の要件は審理判断の対象となり、このことは、収用委員会の審査権限とはかかわりがないものと解されるから、右主張(特公事業認定である本件第一期事業認定の要件に関わるもの)は、本件緊急裁決の取消訴訟である本件訴訟において、当然に審理判断すべきものである。ところで、原告らは、請求原因3の(九)の(3)、(7)において、右主張と同趣旨の主張をしているところ、請求原因3の(九)の(3)、(7)の主張は後記9の(四)の(1)、(5)のとおり失当であるから、右主張もまた同様の理由で失当である。

(三)  次に、右(iii)の事項に係る主張について判断する。

右主張は、本件緊急裁決が特措法二〇条一項に規定する「特定公共事業に係る明渡裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがある場合」という要件(以下「緊急裁決要件」という。)を問題とするものである。

ところで、前記2の(二)で認定したところによれば、本件両土地は空港敷地造成予定高より相当低地にあり、また、本件一二番地は谷地田に所在する土地であり、本件一八番地は谷地田に接する土地であつて、第一期施設の建設工事の工程上最初に着手される地盤改良工事及び盛土工事を施行することが必要な土地であつたが、任意買収の見込みが立たない土地であつたこと、他方、二四番地は空港敷地造成予定地とほぼ等高で、地盤改良工事及び盛土工事をする必要がない土地であり、任意買収の見込みが立つていたことが認められ、また、前掲乙第六一ないし第六三号証の各一、二、成立に争いのない乙第六〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九六号証、証人横井一仁、同森浩、同中村有伯の各証言によれば、本件第一期事業は、当初昭和四六年三月三一日を施行完了日とされていたが、主として反対同盟に属する関係権利者の反対運動により同事業の起業地の取得が容易に進行しなかつたことが原因で第一期施設の建設工事が遅れ、右の施行完了予定が同年二月ころには同年七月に、さらに同年五月ころには昭和四七年初頭になる状況であつたこと、第一期施設の建設工事は、その工程上、標高四一メートルの高さに空港敷地を造成する工事が行われることになつており、その内容は、本件一二番地のように谷地田部である軟弱な地盤の土地には、工事用重機の使用のために、砂を一定の厚さで敷き詰めるサンドマツト工事を行い、次に地盤を強化するために、砂を地盤中に圧入して砂杭を形成するサンドコンパクシヨンパイル工事等の地盤改良工事を行い、右工事完了後、本件両土地のような低地に対して段階的に盛土工事、舗装工事、法面保護工事等の工事を施行するものであつたこと、第一期施設の工事は昭和四四年秋ころから開始され、昭和四五年四月ころから本格的な空港敷地造成工事が行われ、昭和四六年二月ころには未買収地を除き粗造成ができていたこと、その他の工事については、昭和四五年春ころから旅客ターミナルビル、昭和四六年二月ころから管理ビルの建設工事が始まつていたこと、本件両土地付近の区域では、昭和四五年一一月ころから構内道路地区地盤改良工事、盛土工事等が始まり、昭和四六年二月ころには地盤改良工事は約五〇パーセント程度の進捗状況であり、同年五月ころには未取得地であつた本件一二番地を矢板で囲み、同土地の回りの土地部分の地盤改良工事がほぼ完了されており、これに続いて盛土工事が進められていたこと、また、これと並行して排水幹線設置工事が進められていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。以上の認定に係る本件第一期事業の施行完了の予定日、本件両土地の所在していた場所的状況、本件両土地に対する工事内容及び工事工程を勘案すれば、本件緊急裁決当時、本件第一期事業の施行上、本件両土地を緊急に取得する必要性があつたものと認められ、本件両土地の取得ができないか又は遅れる場合には、本件両土地に対する工事が行えず又は工事が遅れることになり、第一期施設の建設工事の最初の段階で行われる空港敷地造成工事から進捗しなくなるものであるから、本件両土地に対する明渡裁決が遅れれば本件第一期事業の施行に支障を及ぼすおそれがあつたものと解するのが相当というべきである。

したがつて、本件緊急裁決は、緊急裁決要件を満たしていたものということができる。

(四)  そうすると、請求原因3の(四)の主張は失当である。

5  特措法二〇条一項違反その二(請求原因3の(五))について

(一)  通常の収用裁決(以下緊急裁決と区別して「通常裁決」という。)は、収用法四八条一項各号及び四九条一項各号に掲げる事項につき審理を尽くした上で行われるものであるが、緊急裁決は、右各号に掲げる事項のうち損失の補償に関するものでまだ審理を尽くしていないものがある場合でも、行うことができるものである(特措法二〇条一項)。そして、緊急裁決においては、右の損失の補償に関する事項については、裁決の時までに収用委員会の審理に現れた意見書、鑑定の結果、その他の資料に基づいて判断できる程度で裁決をすれば足り、その際損失の補償を要すると認められるのに、損失の補償の方法又は金額について審理を尽くしていないときには仮補償金が定められるのである(特措法二一条一項)。

ところで、損失の補償に関する事項については、収用法四〇条一項の規定による裁決申請書の添附書類並びに同法四三条、六三条二項若しくは八七条ただし書の規定による意見書又は同法六五条一項一号の規定に基づいて提出された意見書によつて、起業者、土地所有者、関係人等が申し立てた範囲を起えて裁決してはならない(同法四八条三項、四九条二項)との制約のもとに、収用委員会が審理を行うものであるが、審理の方法、程度等については、収用委員会に広い範囲で任せられているところであるから、損失の補償に関する事項について審理を尽くしたか否かについても、その審理に当たる収用委員会の裁量的判断に委ねられているものということができる。したがつて、緊急裁決において、収用委員会が損失の補償に関する事項につき審理が尽くされていないとの判断のもとに、仮補償金による緊急裁決をした場合は、その判断が著しく合理性を欠くとか、裁量権を濫用したとかといつた特段の事情が認められない限り、右の判断に瑕疵があるものとすることはできず、右裁決が違法となることはないものと解される。

本件緊急裁決が仮補償金を定めて行われたこと、同裁決において、被告委員会が、損失の補償につきなお審理を尽くすべく仮補償金とした旨の判断をしていることは当事者間に争いがない。そうすると、本件緊急裁決における被告委員会の損失の補償につき審理が尽くされていないとの判断に瑕疵があるとするためには、右の特段の事情の存在が肯認されなければならない。

(二)  そこで、本件緊急裁決に関し、右特段の事情があるか否かについて検討する。

(1) 本件緊急裁決は、本件事業に関して行われていた第二次ないし第四次の収用裁決申請に係る土地のうち、第一期工事区域内の土地一五件三三筆の土地について行われたことは当事者間に争いがなく、右第二次ないし第四次申請の際に公団から堤出された関係書類は、本件緊急裁決の審理において判断資料となるものであるところ、証人西内繁行の証言により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第七号証の四、五、第八号証の三、同証言及び弁論の全趣旨によると、公団が本件両土地に関する書類として被告委員会に提出したもののうち、本件両土地の権利関係の調査に関する書類は、本件一八番地の土地調書(乙第七号証の四)、同土地の物件調書(乙第七号証の五)、本件一二番地の土地調書(乙第八号証の三)であること、公団が右の土地調書及び物件調書を作成するに際し、よねは立ち会つておらず、右各調書は成田市の吏員の代行立会によつて作成され、右各調書上には、よねの有した本件両土地の使用権限の具体的内容が明らかにされていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 前掲甲第二二、第三一号証、乙第七号証の二、第八号証の二、四、第九号証の二、三、成立に争いのない甲第一五七ないし第一五九号証、証人西内繁行の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、三、第八号証の一、五、第九号証の一、四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一ないし四、証人西内繁行、同但馬弘衛、同葉山岳夫の各証言によれば、本件緊急裁決の審理に関して、昭和四六年二月一〇日に収用法六〇条の二第二項の規定に基づく被告委員会事務局職員による一回目の現地調査、同年三月一二日に同事務局職員による二回目の現地調査、同月一七日に特措法二五条の規定による被告委員会の現地調査が行われたが、いずれも反対同盟に属する関係権利者、学生らの妨害行為を受け、ほとんど調査の実効があがらなかつたこと、本件両土地に関しては、被告委員会事務局職員による一回目の現地調査では本件一八番地への立ち入り及び調査を拒否され、同事務局職員による二回目の現地調査でもやはり同土地に立ち入ることができず、同土地については、その周りから調査したにとどまり、被告委員会による現地調査では反対派学生らが竹竿等を手にしてデモをしたり、本件一二番地付近で投石、暴行に及ぶなどの調査妨害行為を行い、調査事務職員(被告委員会事務局職員)が本件両土地内に立ち入つて調査することができない状況であつたことから、同法二五条ただし書を適用して調査が打ち切られ、結局よねの立会を得ての調査はすることができなかつたこと、被告委員会は、同年四月七日、右三月一七日の現地調査で調査が完了しなかつたものについて補完調査を行つたが、右補完調査はヘリコプターを使つて上空から土地を見るというものであつたこと、本件緊急裁決の審理は土地の状況、提出された意見書の内容等から三つのグループに分けて審理が行われ、本件両土地に関しては主として反対同盟に属する関係権利者のグループの中で審理されたこと、同グループの審理は同月二三日から同年四月三〇日の間に四回の審理期日が持たれたが、反対同盟に属する関係権利者、その代理人は、審理期日の指定の不当性、使用契約者等の審理参加拒否の不当性に関連した抗議、釈明要求を行い、これに対する被告委員会の但馬会長の行つた釈明を不十分とし、さらに、同趣旨の抗議、釈明要求を執拗に繰り返し、但馬会長の実質審理に入るようにとの審理指揮に従わず、これが原因で審理が混乱する事態が繰り返される状況のまま審理回数が重ねられていつたこと、同月三〇日の第四回審理期日において、反対同盟の戸村一作委員長の意見陳述が行われたが、その中で新空港の建設に絶対反対する立場に立つものであり、一切の補償金、代替地も要らないという発言があつたこと、同人の意見陳述後、但馬会長は他に意見陳述をする者の発言を促したが、審理参加者からは意見陳述を求める者がなく、反対同盟に属する関係権利者、その代理人から前記と同趣旨の抗議、釈明要求が繰り返されるばかりであつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 前掲甲第二二、第三一号証、証人西内繁行、同但馬弘衛の各証言によれば、被告委員会は、第四回の審理期日終了後、右(2)の調査、審理の経過をふまえて、四回にわたり裁決会議を持ち、損失の補償に関する事項について、土地に対する損失の補償としては関係権利者から公団の見積りに対する補償額の提示がなかつたが、関係権利者が公団と補償契約を締結していないことから、公団の見積額を不満としているものと認め、被告委員会としては現地調査、その他資料等から公団の見積額をもつて妥当と判断し、これに修正率を乗じて補償額を一応決定するに至つたものの、まだ審理が尽くされておらず、なお審理を尽くす必要があると判断して、これを仮補償金としたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 以上(1)ないし(3)の認定によれば、本件緊急裁決における調査、審理を通じて、被収用地の損失の補償を適正に算定するための調査が十分に行われたとはいい難く、しかも、本件第一期事業に絶対的に反対する立場をとるよねを含む関係権利者から損失の補償に関する意見が全く出されていないのであるから、損失の補償に関する事項についてまだ審理が尽くされていないとの被告委員会の判断には、到底著しく合理性を欠くとか、裁量権を濫用したとかいつた特段の事情があるものとはいえず、他に右の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

(三)  そうすると、被告委員会の右判断に瑕疵があるとして仮補償金による本件緊急裁決の違法をいう請求原因3の(五)の主張は失当というほかはない。

6  収用法六九条違反(請求原因3の(六))について

(一)  収用法六九条は、損失の補償に関わる関係権利者が一つの収用につき複数である場合には、損失の補償は各人別に定め、これを各人別に払うことを原則とする旨を規定しているが(以下この原則を「個別主義」という。)、同条ただし書は、損失補償額を各人別に見積ることが困難であるときは、個別主義によらないことを認めている。右のただし書が置かれたのは、関係権利者の間に権利関係に紛争があるなど各人別に損失の補償を見積ることが困難である場合にも個別主義を貫徹すると、裁決において常に各関係権利者の権利内容を審理の上確定しなければならず、裁決をするのに過大な負担がかかるとともに、裁決を著しく遅延させることになりかねず、速やかに損失補償を決定して裁決を行うという公共の利益に適合しない事態が生じることを慮つたからにほかならない。しかし一方、個別主義によらない場合には、その一括された損失の補償の分割は、関係権利者の間で合意に達しない限り、最終的に民事訴訟によらざるを得ず、右訴訟が長引けば、実際上損失の発生の時点と現実にそれが填補される時点との間に大きな時間的間隔が生ずる結果となることを考えると、右のただし書の規定の適用は、慎重でなければならないと解される。

(二)  本件緊急裁決における本件一八番地に対する補償は、同土地の所有者岩沢真治と関係人よねの二人につき、各人別に見積ることが困難であるとして、右二人に対する仮補償金が、一括して総額で定められ(その額は、一五七万四六三五円である。)、公団はこれを一括して供託したこと、よねの本件一八番地に対する権利が使用借権であること、補償基準要網一二条において使用貸借による権利に対する補償の算定方法についての定めがあることは当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第二四号証によれば、補償基準要網は収用法その他の法律により土地等を収用し又は使用することができる事業に必要な土地等の取得又は土地等の使用に伴う損失の補償の基準の大綱を定め、もつてこれらの事業の円滑な遂行と損失の適正な補償の確保を図ることを目的として定められたものであること(同要網一条)、同要網一二条には使用貸借による権利に対する補償の規定があり(この事実は、右のとおり当事者間に争いがない。)、同規定は「使用貸借による権利に対しては、当該権利が賃貸借であるものとして前条の規定に準じて算定した正常な取引価格に、当該権利が設定された事情並びに返還の時期、使用及び収益の目的その他の契約内容、使用及び収益の状況等を考慮して適正に定めた割合に乗じて得た金額をもつて補償するものとする。」と定めていることが認められ、この補償の算定方法は妥当なものと考えられる。

以上によれば、使用借権に対する損失の補償額を算定するには、当該権利の具体的内容としての使用態様、使用状況、使用期間等の事項を認定する必要があり、これら事項が認定できなければ、使用借権に対する損失の補償額も確定できないことは明らかである。

前掲乙第七号証の二、四、第八号証の四、第九号証の三によれば、よねが本件一八番地の使用借権を有することについては公団及び被告委員会とも承認していたことが認められるが、前記5の(二)によれば、被告委員会は本件緊急裁決における調査、審理では右よねの使用借権につき、その具体的内容としての前記諸事項を全く把握できなかつたこと、そのような事態にたち至つたのは、被告委員会が各人別の見積りの手続を怠つたことによるものではなく、専ら本件第一期事業に反対するよねの側に本件緊急裁決の審理に協力する姿勢がなかつたことによるものであると認められる。そうすると、本件緊急裁決当時、被告委員会が、本件一八番地に対する損失の補償を、同土地の所有者岩沢真治と関係人よねとに区分して各人別に見積ることは困難であることは明らかというべきであつて、収用法六九条ただし書の規定をいかに厳格に解しても、これに該当するといえるから、被告委員会が同土地に対する仮補償金を右の二人につき一括して定めたことは適法というほかない。

なお、公団補償規程が定めれていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一二八、第一二九号証によれば、同規程は、公団が事業の用に供する土地等の取得又は土地等の使用に伴う損失の補償の基準を定めるものであり、使用貸借による権利に対する補償について補償基準要綱一二条と全く同旨の規定(同規程一三条)を置いていること、同規程の処理要領に関する通達の第三には、同規程一三条は賃借権の正常な取引価格に乗ずべき適正に定めた割合は、通常の場合においては三分の一程度を標準とする旨定めていることが認められる。しかし、本件一八番地に対する損失の補償は特措法及び収用法に基づく土地の収用が行われる場合であつて、右規程が直接に適用されるものではなく、また、右規程が参酌されるべきであるとしても、前記5の(二)の(2)によれば、よねの同土地に対する使用借権が右通達の第三でいう通常の場合に該当するとの判断をすることも困難であつたといわざるを得ない。したがつて、右規程によつても、損失の補償を一括して定めたことが適法であるとの右判断を左右することはできない。

(三)  原告らは、被告委員会が公団をして仮補償金を一括供託させたことをも本件緊急裁決の違法事由としているようであるが、公団の供託の方法が本件緊急裁決の違法事由となり得ないことはいうまでもない。

(四)  そうすると、請求原因3の(六)の主張は失当である。

7  特措法二三条違反(請求原因3の(七))について

(一)  原告らは、よねに対し仮住居の提供のない本件緊急裁決は、特措法二三条違反の違法があると主張する。

(二)  特措法二三条によれば、緊急裁決の申し立てに係する土地に現に居住の用に供している建物がある場合において、その建物の居住者が仮住居を必要とするときは、当該居住者は、仮住居に要する費用に充てるべき補償金に代えて、起業者が仮住居を提供することを収用委員会に要求することができ(一項)、収用委員会は、右要求が相当であると認めるときは、仮住居の提供の裁決をすることができる(二項)旨定めている。

右規定によれば、収用委員会が仮住居の提供の裁決をするには、収用される土地上の建物に居住する者から仮住居の提供の要求があることが必要とされている。この点につき、原告らは、仮住居の必要な者に対しては、右の要求がなくても、仮住居の提供の裁決ができる旨主張しているが、独自の見解であつて採用するに足りない。

ところで、よねが本件緊急裁決の申立てに係る本件一八番地に使用借権を有し、同土地上に建物を所有してそこに居住していたこと、しかし、よねが被告委員会に対し、仮住居の提供の要求していないことは、当事者間に争いがない。したがつて、被告委員会が、本件緊急裁決において、よねに対して仮住居の提供の裁決をしなかつたことは、よねから仮住居の提供の要求がなかつたことによるものであつて、適法な措置というほかはない。

(三)  そうすると、請求原因3の(七)の主張は失当である。

8  緊急裁決における手続的瑕疵について

(一)  特措法二〇条二項違反(請求原因3の(八)の(1))について

公団が提出した本件緊急裁決申立書には、緊急裁決申立ての理由が記載されていなかつたことは、当事者間に争いがない。

特措法二〇条二項によれば、緊急裁決の申立ては建設省令で定める様式に従い、書面でしなければならないとされており、右建設省令である特措法施行規則四条には、特措法二〇条二項の規定による申立書の様式は別記様式第三とするとなつており、別記様式第三は別紙六のとおりである。右様式によれば、緊急裁決を申し立てる理由を記載するようになつているから、公団が提出した本件緊急裁決申立書は右の様式に従つたものではなかつたということができる。

しかし、特措法二〇条二項が緊急裁決の申立てを右様式の書面によらせることとしているのは、受理段階において右の申立てが適正な形式を整えたものであるか否か、受理すべきものであるか否かを容易に判別し得るようにするためのものであり、また、申立書に緊急裁決を申し立てる理由を記載させることとしているのは、収用委員会が緊急裁決要件の存否を判断する参考とするものであつて、申立書に様式上の欠陥があるときは、補正の機会が与えられ、その機会が与えられたにもかかわらず、補正されないときは、右の申立ては却下されるのである(収用法一九条、四一条参照)。このように緊急裁決の申立てを一定の様式の書面によらせる趣旨が専ら収用委員会の便宜のためであり、申立書の様式上の欠陥は原告らの法律上の利益に関係のある瑕疵とはいい難いことに鑑みると、収用委員会が右の申立てにつき裁決により実体判断をした後には、申立書の様式上の欠陥があつても、それを理由に裁決を違法とすることはできないと解するのが相当である。

そうすると、本件緊急裁決は、その申立てにつき実体判断をしているから、請求原因3の(八)の(1)の主張は、主張自体失当である。

のみならず、証人西内繁行、同但馬弘衛の各証言によれば、被告委員会は、本件緊急裁決の申立てがあつた時点では同申立書に右様式上の欠陥があることを看過して受理したが、本件緊急裁決を行うまでに現れた、公団から提出されていた本件緊急裁決申立ての前提となつている本件第一期事業に関する書類及び本件緊急裁決の審理における公団の口頭による理由説明等により、本件緊急裁決を申し立てた理由である本件第一期事業の緊急性の存在及び右の申立ての緊急裁決要件の存在等の事情を了知し、その上で本件緊急裁決の審理を進めたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、本件緊急裁決申立書の前記様式上の欠陥は実質的には補正されたものともいうことができるのであり、この点でも、右主張は失当である。

(二)  収用法四七条の三第一項違反(請求原因3の(八)の(2))について

(1) 前掲乙第七号証の五及び弁論の全趣旨によれば、第三次申請に際し、本件一八番地の物件調書が提出されていることが認められる。

(2) 第二次申請に際し、本件一二番地の物件調書が提出されていないことは、当事者間に争いがない。

ところで、物件調書は、収用委員会における審理に際して事実の調査、確認を容易にし、もつて、その審理の効率化を図るため、収用又は使用する土地の上にある物件及び物件に関する権利の種類、内容、その所有者又は権利等について記載するものである。そして、物件調書は、それが適法に作成されたときには、記載されている事項は真実に合致しているものとの推定力が与えられる(収用法三八条)。右のような物件調書の作成の目的等に鑑み、収用法は、収用し又は使用しようとする土地にある物件について、起業者に対し、物件調書の作成を義務づけている(同法三六条一項。なお、同法三七条二項、三項参照)。しかしながら、右の各規定内容によれば、起業者に対し物件調書の作成を義務づけているのは、あくまで右土地にある物件についてであるから、右土地上の物件が存在しない場合には、その旨の調書を作成すれば収用委員会の審理の効率化に資するけれど、そのような調書の作成が起業者に義務づけられているわけではない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第三六号証によれば、昭和四六年八月一三日四五建設省茨木総発第一七号計画局総務課長回答では、「明渡裁決申立てをしようとする土地に物件がない場合にも、物件調書の作成を要するものと解する。」としていることが認められるが、同回答は、実務上の取扱いとして右土地上に物件がない旨の調書の作成を要するとしたまでであつて、収用法上起業者に右の調書の作成義務があるとか、右の調書が収用法上の物件調書に当たるとかの点までは、述べていないと解することも可能であるから、右の判断を左右するものではない。

前掲甲第二二号証、乙第八号証の三、弁論の全趣旨により原告が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第二〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件一二番地は稲作用の田として使用されていたが、公団が昭和四五年四月二二日に行つた収用法三五条の規定による土地物件調査当時、同土地には稲立毛、立木等の物件が存在していなかつたこと、公団は、同年五月四日、同土地について、土地調書を作成したが、物件が存在していなかつたため物件調書は作成しなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定によれば、公団による土地物件調査時には、本件一二番地上に物件が存在しなかつたのであるから、収用法上は公団に同土地についての物件調書を作成する義務はなかつたということができる。

なお、前掲甲第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二、証人西内繁行の証言によれば、公団は昭和四六年五月二六日付け意見書で本件一二番地の稲立毛の立毛補償を申し立て、これに基づき、被告委員会は、よねに対し、右の立毛補償として四万八五三三円の仮補償金を定めていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右認定によれば、右意見書の提出のころではあるが、本件一二番地につき物件調書が作成されたと変わらない状態が現出したものといえるから、よねは、本件緊急裁決において同土地につき物件調書が提出されなかつたことによる不利益を受けていないものということができるものである。

(3) そうすると、右(1)のとおり本件一八番地については物件調書が提出されており、また、右(2)のとおり本件一二番地については物件調書を作成すべき場合でなかつたので物件調書が提出されなかつたのであるから(しかも、よねは、その不提出によつて不利益を受けていない。)、本件両土地の収用等申請には収用法四七条の三第一項二号の違反はない。

(4) したがつて、請求原因3の(八)の(2)の主張は失当である。

(三)  特措法二〇条四項違反(請求原因3の(八)の(3))について

(1) 原告らは、収用委員会は緊急裁決の申立てがあつた日から二か月を超えた後に緊急裁決をすることができず、右期間を超えてされた本件緊急裁決は特措法二〇条四項に違反すると主張する。

しかし、同項は、緊急裁決の申立てがあつた日から二か月の期間内に緊急裁決するよう努力すべきことを定めた規定であつて、右期間の経過により、直ちに、収用委員会は当該緊急裁決の申立てにつき緊急裁決をする権限及び義務がなくなるわけではないと解するのが相当である。もつとも、収用委員会が緊急裁決をすることなく右期間を徒過した場合において、起業者から行服法七条に基づき不作為についての異議申立てがあつたときは、収用委員会は、同法三八条の二第二項の規定により右異議申立てのあつた日から一か月以内に裁決を行うべき日を定め、これを起業者に通知すれば、その間引き続き審理し裁決を行い得るもののそうでない限り、建設大臣に事件を送付し(同条一項)、その代行裁決(同法三八条の三第一項)に委ねなければならず、それにより、収用委員会は裁決を行う権限を失うものとされているのである。しかし、これは、起業者からの右の異議申立てがあることが前提となつているものであり、右の異議申立てを行うか否かは起業者の任意であつて、異議申立てが義務づけられているわけではないので、緊急裁決の申立てがあつた日から二か月の期間を徒過したからといつて当然に収用委員会が緊急裁決を行う権限を喪失するものではない。

(2) 本件緊急裁決は、その申立てがあつた昭和四六年二月三日から二か月の期間を超えた同年六月一二日に行われたことは当事者間に争いがないが、右申立てがあつた日から二か月を経過した後本件緊急裁決までの間に、起業者である公団から行服法七条の規定による異議申立てが行われていないのであるから、被告委員会は本件緊急裁決申立てに応答する権限及び義務があるということができる。

(3) そうすると、請求原因3の(八)の(3)の主張は失当である。

(四)  被告委員会の審理手続の違法(請求原因3の(八)の(4))について

(1) 使用契約者等の審理を受ける権利の否定について

第二次ないし第四次申請について、収用法四二条二項、四七条の四第二項所定の縦覧期間中に、第二次申請分につき三七九九人、第三次申請分につき三三六八人、第四次申請分につき一三〇六人から、それぞれ意見書が提出されたが、公団から関係人であるとされた者を除いた者の意見書中には、各提出者が関係人に該当する旨の表示がなかつたこと、被告委員会はこれらの者に対して文書で関係人及び準関係としての権利について照会を行つたところ、延べ一万二一九一人の者(使用契約者等)から確認証が提出されたこと、しかし、被告委員会は右の使用契約者等につき関係人とは認められないとして本件緊急裁決の審理手続に参加することを認めなかつたことは、意見書及び確認証の提出者数を除き当事者間に争いがなく、前掲甲第二二第三一号証によれば、右の提出者数が右のとおりであることが認められる。

そこで使用契約者等が関係人に該当するかどうかについて検討するに、前掲甲第二二、第三一号証、成立に争いのない乙第一二号証によれば、本件両土地に関する使用契約者等が提出した確認証は、よねが本件一八番地上に所有していた木造草葺平屋建居宅、床面積一六・五四平方メートルの建物についての使用貸借契約確認証(乙第一二号証)であるが、その借主数は一七三五人であり、契約内容は(i)貸主(よね)は各借主が右建物を使用すること及び右建物敷地に立ち入ることを認めること、(ii)貸主は借主すべてに対し右建物敷地を自由に使用できるものとすること、(iii)各借主は貸主が従来どおり右建物及び建物敷地を使用し、立ち入ることを認めること、(iv)各借主は空港反対闘争が勝利した場合には、貸主に対して右建物を返還する、というものであることが認められる。しかし、右建物の規模からして一七三五人もの使用貸借契約に基づく借主が存在すること自体異常であるだけでなく、右確認証にある契約内容では、貸主は借主となつている者に対して目的物である右建物を引渡し、貸主に独立の占有支配を移転するものではなく、単に右建物及びその敷地について立入りを許されているに過ぎないものと解されるのであり、右確認証にある契約が民法五九三条に規定する貸借の目的物の引渡しを要件とする使用貸借契約であるとは到底解し難いこと、また前掲乙第一二号証によれば、借主となつている者の中によね自身が入つていたり、幼児を含む家族全員が借主となつていたり、遠くは九州、四国、近畿等の遠隔地及び千葉県外に住所を有する者が多数借主となつていることが認められ、この点においても通常ではあり得ない契約内容といえることに加え、右の者ら全員が昭和四四年一〇月一日に契約を締結したというもので、その契約締結態様も実際にはあり得ないような不自然極まりないものであること、さらに、前掲乙第七号証の二、三第八号証の四、第九号証の三によれば、被告委員会事務局職員及び被告委員会の行つた現地調査当時には、本件一八番地には数名の学生とよねがいたに過ぎず、前掲甲第三一号証によれば、使用契約者等に名を連ねる者のうち、当該使用契約の事実を全く知らない者がいたことがそれぞれ認められ、右確認証の記載内容の信用性は非常に疑わしいものといえる。そして、証人葉山岳夫の証言によれば、乙第一二号証の確認証は、よねと共に新空港建設反対闘争を行おうとするものがそろつて署名したというものであることが認められるのである。このような諸点を総合すれば、本件両土地に関係する使用契約者等が提出した確認証は、真実使用貸借契約を結んだことを確認するために作成したものではなく、反対同盟に属する者及びこれを支援する者が反対運動の一環として本件緊急裁決の審理に参加する手段として作成したに過ぎないものであり、本件両土地に関係する使用契約者等は実体上使用借権を有していなかつたものと認むべきであり、右の判断を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、右使用契約者等を関係人と認めず、本件緊急裁決の審理に参加させなかつた被告委員会の処理は、審理手続上適法であるというほかはない。

(2) 審理期日の指定、運営における手続上の違法について

原告らは、被告委員会が行つた本件緊急裁決の審理期日の指定が一方的かつ背信的であり、またそのようにして決定した審理期日に審理を強行したと主張する。

収用法及び特措法によれば、収用委員会が主体となつて審理を開催し、同委員会会長又は指名委員が審理手続を指揮、運営していくものであること(収用法四六条一項、六二条、六四条等)、審理期日の決定方法について特別の手続的規定がないことからすると、審理の進行については収用委員会の裁量に委ねられているものと解され、したがつて、収用委員会が審理の進行に関して行う手続上の行為は、それが著しく合理性を欠くとか、その裁量権を濫用したとかといつた特別の事情が認められない限り、適法なものというべきである。

そこで本件緊急裁決の審理経過を検討するに、第一回の審理が昭和四六年三月二三日、第二回の審理が同月二四日、第三回の審理が同年四月二七日、第四回の審理が同月三〇日にいずれも千葉県総合運動場体育館において開催されたことは、当事者間に争いがなく、前掲甲第三一号証、証人西内繁行の証言によれば、被告委員会は、本件緊急裁決の審理を土地の状況及び提出された意見書の内容等により三つのグループに分けて行うことにし、本件両土地については、主として反対同盟に属する関係権利者に関するものとして、収用事件番号七ないし一〇、一五、一九、二一ないし二三番等の土地と一緒に審理されることになつたこと(以下、右のグループを「反対派グループ」という。)、被告委員会は、審理期日については、反対派グループの関係権利者が土地所有者二六一人、関係人一一九人の合計三八〇人という多人数であつたこと及び同グループ代理人の選任が遅れていたことから、右関係権利者全員の意向を聞くことなく、職権で第一回の審理期日を決定したこと(なお、当初第一回の審理期日として昭和四六年三月一〇日が決定されたが、同期日は後に取り消され、前記同月二三日が第一回の審理期日とされたことは、当事者間に争いがない。)、審理会場については、関係権利者三八〇人という多人数を収容する施設の問題、関係権利者の中に千葉県外に住所を有する者がいたこと及び本件緊急裁決よりも多い関係権利者を擁した第一次申請の審理を前記体育館で行つた実績を考慮し、同体育館とすることに決定したことが認められ、前掲甲第三一号証、第一五七ないし第一五九号証、乙第六号証の一ないし四、成立に争いのない甲第一五六号証、乙第一三、第一四号証、証人西内繁行の証言により真正に成立したものと認められる乙第一九号証、証人西内繁行、同石井武、同但馬弘衛、同葉山岳夫の各証言によれば、審理の開始前の手続経過並びに審理状況及びその経過は、被告らの主張2の(二)の(1)、(4)、(5)、(7)及び(8)に記載の状況及び経過であつたことが認められ、成立に争いのない甲第一五〇、第一五一号証、第一五三ないし第一五五号証、乙第一六号証、証人西内繁行の証言により真正に成立したものと認められる乙第一八号証、証人葉山岳夫の証言によれば、審理期日の決定に関して、請求原因3の(八)の(4)の<2>の第二段の事実が認められ、右各認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の認定によれば、被告委員会が本件緊急裁決の審理会場を前記体育館に決定したことについては合理性があると認められるし、審理期日の決定及び審理の進行についても、審理に参加する関係権利者が多人数であり、その者らは新空港の建設に反対する立場にあるもので、被告委員会会長の審理指揮に容易に従わなかつた審理状況からすると、著しく合理性を欠くとか、裁量権を濫用したとかいつた事情は認めることができず、いずれも適法な措置ということができる。

(3) 求釈明の無視について

右(2)で認定した本件緊急裁決の審理状況及び前掲乙第六号証の一ないし四によれば、審理の場で反対派権利者らの代理人から出された求釈明の内容は、大要すると(i)使用契約者らの審理参加拒否の不当性、(ii)審理期日決定方法及び決定された期日の不当性、(iii)特措法の違憲性、(iv)審理に際し警察官の出動を求めた不当性、以上の事項に関するものであり、被告委員会はこれについて一応の釈明を行つていること、しかし、それで十分としない反対派権利者らの代理人から同趣旨の求釈明が繰り返されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、被告委員会は、審理の場で出された求釈明に対し、釈明の程度はともかく、それを無視したり、全く応答しなかつたものではなく、また、同釈明が反対派権利者らの納得するところではなかつた点については、結局それぞれが持つ見解及び本件緊急裁決に関わる立場の相違に尽きることに帰するものであつて、被告委員会の行つた審理手続に、著しく合理性を欠くとか、裁量権を濫用したとかいつた事情は認められないから、適法というべきである。

(4) 意見陳述の権利の否定について

前記(2)で認定した審理状況によれば、被告委員会は関係権利者に対して意見陳述の機会を与えたことが認められ、関係権利者(反対派権利者らを含む。)がこれを適切に利用しなかつたものというべきである。したがつて、被告委員会が関係権利者の意見陳述の権利を否定したことにはならない。

(5) 警察官の出動による意思制圧下での審理の実施について

警察官の出動によつて関係権利者の意思が制圧されたことを認めるに足りる適確な証拠はなく、前記(2)で認定した審理状況によれば、審理の過程で傍聴人らが審理を妨害したり、新空港建設に反対する学生らが審理会場に乱入するなどの行為があり、これらの審理妨害行為や暴力行為を排除するために警察官の出動が求められ、警察官は右の目的以上の行為に出ていないことが認められるので、被告委員会の右処置は適法といつてよい。

(6) そうすると、請求原因3の(八)の主張は失当である。

9  特公事業認定における実体要件(特措法七条四号)欠缺の違法の承継(請求原因3の(九))について

(一)  違法性の承継について

被告は、特公事業認定と緊急裁決との間に違法の承継は認められない、と主張する。

しかし、緊急裁決は先に特公事業認定がされていることを前提としており(特措法二〇条一項)、この引き続いて行われる特公事業認定と緊急裁決とはいずれも特公事業に係る起業地の収用等という一つの法律効果の発生を目指す一連の行為であるから、先行の特公事業認定に瑕疵があつて違法であるときは、後行の緊急裁決は当然に違法となり、したがつて、緊急裁決の取消訴訟において、特公事業認定の要件は審理判断の対象となるものと解するのが相当である。そして、このことは、特公事業認定につき不可争力(形式的確定力)が生じているか否か、あるいは、緊急裁決をする収用委員会に特公事業認定の要件につき審査権限があるか否かにかかわりがないものと解される。

それゆえ、被告の右主張は採用できない。

(二)  原告らは、本件第一期事業につき、(i)新空港を建設すること自体に緊急性が欠如していたこと、(ii)第一期工事区域の土地の取得以外の新空港の開港に当たり解決を要する課題につき、解決の見通しが立つていなかつたことを挙げて、第一期事業認定は、特公事業認定の要件とされる事業を緊急に施行することを要するという特措法七条四号の要件(以下「緊急施行性」という。)を欠いていた旨主張する。

ところで、本件第一期事業認定の違法性の判断基準時は、同事業認定時であることは当然である。以下、これを念頭に置いて原告ら主張の事由を検討する。

(三)  新空港建設自体の緊急性の有無について

(1) 前掲乙第二二号証、成立に争いのない甲第五七号証、第五八号証の一、二、第六一、第六三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三〇、第三三、第三五、第三六、第四五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二八号証の一、二によれば、被告らの主張1の(一)ないし(四)の事実が認められ、これによれば、本件第一期事業認定当時、新空港建設それ自体に緊急性があつたものであつて、本件第一期事業に緊急施行性があつたことは明らかである。

(2) 原告らは、右認定の発着回数の予測が誤つていると主張する。

しかし、前掲乙第二二号証、第二八号証の二、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九四号証によれば、右の発着回数の予測は、航空機一機当たりの搭乗員数の実績の動向に、昭和四五年から大型機が導入されるものとして、日本航空及び外国航空会社の就航機材の計画を基にした航空機の機種別構成を加味して、航空機一機当たりの搭乗員数を推定し、これと推定乗降旅客数から発着回数を求めたものであることが認められ、これによれば、右の予測に際しては新型機種の導入も考慮されており、右の予測の基礎及び方法に合理性を欠く点があるとはいえないので、右の発着回数の予測結果は妥当なものというべきである。

したがつて、原告らの右主張は採用できない。

(3) 原告らは、羽田空港における国内線の需要を調整することによつて、国際線の需要を十分補填できるものと主張する。

しかし、航空交通は最も迅速な交通、運輸手段として社会的、経済的に重要な機能、役割を有するものであり、長距離輸送や離島間の輸送等に必要不可欠かつ公共性の高い交通手段であることは公知の事実である。このような有用性交通手段の国内需要を抑制することは困難であるのみならず、需要抑制策を採ること自体各方面に問題を生ずることになるのは容易に推測されるところである。そして、前掲乙第二二号証によれば、国内線の需要も毎年着実に伸びていることが認められ、このような状況において羽田空港の国内線の需要を抑制する方向において調整することは実際上多方面において無理を重ねることにならざるを得ないから、右の需要調整策を考慮して、新空港建設の必要性を論ずるのは妥当ではないというべきである。なお、原本の存在及び成立に争いのない乙第三七号証の二、三、第三八号証によれば、羽田空港の輻輳緩和対策として、運輸省航空局長から昭和四六年八月一九日に日本航空、全日本空輸株式会社及び東亜国内航空株式会社に対して羽田空港における一日の発着回数を四六〇便に制限する旨の協力要請が行われ、次いで、昭和四七年一一月一四日にも同局長から同空港における一日の定期便の発着回数を四四〇便にする旨の協力要請が行われていることが認められ、この協力要請は、供給量(同空港の容量)との関係で危険を防止するためやむなく出されたものと考えられるが、このために同空港の潜在的需要が相当に存在していたことも認められるのである。

したがつて、原告らの右主張も採用できない。

(4) 原告らは、羽田空港の過密は同空港の拡張を怠つた結果によるものであり、このような原因で生じた新空港建設の緊急性は特措法七条四号で規定する緊急性であるとはいえないと主張する。

羽田空港の拡張又は移転案として請求原因3の(九)の(2)の<3>のイの第一段及びウの(ア)、(イ)の第一段、(ウ)、(エ)に記載のものが出されたことは、当事者間に争いがない。しかし、前掲甲第五七号証、乙第三五号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九二号証、乙第二九号証の一、第三一号証の二、三、第四四号証、第四八号証、第四九号証の一ないし三、第五三号証、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第四六号証の一、二によれば、同空港の拡張又は移転案は、被告らの主張3の(九)の(2)の<2>のエの(ア)ないし(エ)に記載するとおり、東京湾における既存の船舶航路へ重大な支障を及ぼし、あるいは東京港港湾計画との間に大幅な抵触を生ずること、広範囲な埋立工事をするには技術的、経費的、工期的な問題があること、東京湾内の気象条件上難点があること、立地条件上、羽田空港を拡張しても、拡張の割に発着処理能力向上の点で効率が悪いことなどの問題点があることが認められ、これによれば、同空港の拡張自体相当に困難を伴うだけでなく、仮に同空港を拡張してみても航空需要の伸びに対応することができないものと考えられるから、同空港の拡張がされなかつたことは、本件第一期事業の緊急施行性を認める妨げにはならないものというべきである。

したがつて、原告らの右主張も採用できない。

(5) 原告らは、運輸省は羽田空港のA滑走路の使用を中止し、同空港の処理能力を故意に低下させたと主張する。

昭和四二年一二月一九日、運輸省は、同空港のA滑走路をつぶして駐機スポツトとし、C滑走路の外側を埋め立てて三〇〇〇メートルの新A滑走路を建設し、併せてターミナルビルの整備を行うという計画を立てたが、大蔵省との折衝の結果、A滑走路を事実上つぶして駐機スポツト三五バースを増設し、B滑走路を二五〇〇メートルに延長するという拡張計画が実施されたことは、当事者間に争いがなく、前掲乙第三〇号証、成立に争いのない甲第八六、第八七号証、第九四号証の二、原本の存在及び成立に争いのない乙第五一号証によれば、右拡張計画の実施は昭和四五年ころまでにされ、それ以降A滑走路の一部は駐機スポツトとして使用されていること、この使用は同空港における駐機スポツトの不足を補うためのやむえない措置であつたことが認められる。

しかし、運輸省が故意に同空港の処理能力を低下させたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そもそも同空港のA、B及びCの三本の滑走路が完全に使用できた場合でも、その処理能力は年間一七万五〇〇〇回が限度であることは先に認定したとおりであり、先に認定の需要予測に照らし、早晩限界値に達することが明らかだつたのであるから、右のA滑走路の使用状況が、本件第一期事業の緊急施行性を認める妨げになるものではない。

したがつて、原告らの右主張も採用できない。

(6) 原告らは、羽田空港の過密による同空港における発着回数の制限措置は、空港整備及び管制方式の技術改善を怠つた結果によるものであり、このような原因で生じた新空港建設の緊急性は特措法七条四号に規定する緊急性とはいえないと主張する。

前掲乙第三五、第五三号証、成立に争いのない甲第一一二ないし第一一五号証によれば、原告らが技術改善の一つとして主張するエリア・ナビゲーシヨンシステムというのは、現在、VOR、DME、TACANなどの航法援助施設によつて同施設を結ぶ直線コースに設定されている航空路を航空機が航行するという航法がとられているので、同航空路に限つて航空渋滞が集中しているのであるが、これを改善するため、VOR/DMEの覆域内の任意のコースを航行することを可能とする運行技術をいうものであること、したがつて、同システムによつて航空路の航空渋滞を改善することはできても、空港の発着回数の処理能力の向上に直結するものではないこと、また、右システムの採用は航空先進国である米国においてさえ昭和五七年導入が目標とされていたものであること、次に、ARTSIIIシステムというのは、飛行場周辺の空域における航空交通の安全性を図ることを目的とした管制システムであるが、これまた空港の発着処理能力の向上に直結するものではないこと、そして、これも昭和五一年ころにやつと実用化されたものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、原告らが空港整備及び管制方式の技術改善策として主張するエリア・ナビゲーションシステム及びARTSIIIシステムは、これを採用したとしても、羽田空港の発着処理能力の改善に直結するものではなく、また、いずれも本件第一期事業認定当時に実用化されていなかつたものであるから、これらの技術の導入が可能であり、かつその導入により右発着処理能力の改善が図られることを前提とする右主張も採用できない。

(四)  第一期工事区域の土地取得以外に新空港を共用開始するうえで解決されることが必要不可欠な課題との関係について

(1) 航空燃料輸送の問題

新空港における航空燃料の確保については、千葉港頭に油槽船で運ばれてきた航空燃料を、同所の給油施設を経由し、新空港まで約四二キロメートルにわたり敷設するパイプラインにより輸送して確保するという計画であつたことは、当事者間に争いがない。

前掲甲第一九二号証、乙第二二、第三六号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二一号証の一、三によれば、被告大臣は、本件第一期事業認定の際に、公団から右パイプライン用地は収用手続によらないで確保する方針であるとの説明を受け、道路局の占用許可担当者からも説明を聴取し、これが可能であると判断したこと、またこの当時、パイプラインによる航空燃料輸送以外にも鉄道又はタンクローリー車等による輸送も可能であると考えられており、パイプラインによることが必ずしも絶対的な手段ではなく、いずれにしても、航空燃料の確保ができると判断していたことが認められ、その当時、右の判断を誤りであるとみるべき的確な証拠はない。なお、成立に争いのない甲第五一号証の論説、成立に争いのない甲第七九、第八三、第一三四、第一四九号証並びに原本の存在及び成立に争いのない甲第一七一、第一七三、第一七七、第一七八、第一八〇、第一八一号証の新聞記事、原本の存在及び成立に争いのない甲第一八四、第一九七号証並びに弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる甲第一八六、第一八八、第一八九号証の雑誌記事には、それぞれパイプラインによる航空燃料の輸送問題の解決が遅れ、又は実現の目途が立つていない旨の記述があるが、いずれも本件事業認定及び本件第一期事業認定後の事情に基づくものであつて、右認定を覆すに足りない。

したがつて、本件第一期事業認定当時において、航空燃料の輸送を確保する見通しがあつたものということができる。

(2) 新空港への交通手段の確保の問題

前掲甲第一九二号証、乙第二一号証の一、第二二、第三〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九一号証、乙第二四号証の一、二、第二五、第二六号証、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第二三号証によれば、被告らの主張3の(九)の(2)の<4>のア、イの事実が認められ、これによれば、本件第一期事業認定当時新空港への交通手段は確保される見通しであつたということができる。なお、前掲甲第五一号証の論説、第一四九、第一七八、第一八〇号証の新聞記事、第一八九、第一九七号証の雑誌記事、原本の存在及び成立に争いのない甲第一七四ないし第一七六号証の新聞記事、成立に争いのない甲第一〇七、第一〇八号証並びに原本の存在及び成立に争いのない甲第一八五号証の雑誌記事には、それぞれ新空港と東京との交通手段(アクセス)の問題が解決されていない旨の記述があるが、いずれも交通手段が全く確保されていないというものではなく、他の国際空港に比べて所要時間がかかり過ぎるので、新空港は国際空港としては適当でないというものであつて、右認定を覆すに足りない。

したがつて、本件第一期事業認定当時において、新空港への交通手段の確保の見通しがあつたものということができる。

(3) 航空機騒音対策の問題

航空機の騒音が空港周辺住民に対して多大の被害を及ぼすこと及び現在ではその対策が重要課題となつていることは、公知の事実である。この騒音問題が空港建設上避けられない問題であることを否定するものではないが、同問題を解決する必要性があることが直ちに空港建設の緊急性を減少又は消滅させることにはならないというべきである。

前掲甲第一九一、第一九二号証、乙第三〇号証によれば、新空港の位置は、騒音問題を避けるため、できるだけ民家が少ない所ということが考慮されて決定されていることが認められ、前掲乙第四号証の一、第二二、第三〇号証、成立に争いのない甲第九九号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三九号証によれば、昭和四一年七月四日「新東京国際空港の位置決定に伴う地元対策」という閣議決定がされ(この事実は当事者間に争いがない。)その中で、騒音対策として、(i)国が実施している騒音対策の基準等を勘案して、一定ホン以上のものについて格別の配慮を行う、(ii)騒音対策区域内の住家及び店舗で移転を希望する者については、実情に応じ、移転先のあつせん、移転料等について国が所要の措置を講じ、学校、病院については国費をもつて措置する、(iii)騒音対策区域内の農耕地については、必要なものについて畑地かんがい施設を建設し、農業収入の増大を図る旨定められ、また、昭和四二年八月一日に公布された「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(同年法律第一一〇号)の定めるところにより、新空港は同法適用の特定飛行場とされ、運輸大臣は航空機騒音の防止ないし軽減のため航行の方法を指定することができ、公団には騒音防止工事の助成、共同利用施設整備の助成、移転補償、農耕阻害補償の措置を行う権限が与えられており、実際に右法律にのつとり、四〇〇〇メートル滑走路の両端からそれぞれ長さ二キロメートル、幅六〇〇メートルの部分を騒音区域として土地の買い上げを行い、学校等の共同利用施設につき、第一期(昭和四六年末に完成予定分)として一四施設、第二期分として一四施設の防音工事を行うこととし、その他にも防音林の設置、防音対策委員会の設置を行い、また昭和四七年度予算には防音工事の調査費が計上されていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、本件第一期事業認定当時、新空港に係る騒音対策は、基本的方針が決められ、それに基づき既に実行段階に入つていたものということができる。

したがつて、右当時において、騒音問題のゆえに、新空港建設の緊急性が減少又は消滅することはありえなかつたということができる。

(4) 空域確保の問題

航空機の安全な航行と離発着とを確保するためには、空域を十分に設定する必要があること、新空港は空域分離方式による管制システムが採用されることとなつていたこと、同空港の位置する関東上空には既に百里空域、羽田空域、横田空域が設定されており、同空港を建設する場合には、右各空域の中に成田空域を設定することになることは、当事者間に争いがない。

前掲甲第一八八、第一八九、第一九一号証、乙第三三、第三五号証、成立に争いのない甲第一一九号証の二、三、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九三号証、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第二七号証並びに弁論の全趣旨によれば、新空港の用地選定に当たり、航空審議会、運輸省航空局等が管制専門家の意見を聴取し、同空港に必要な空域が確保されることを確認し、管制上問題がないと判断したこと、現在、新空港、羽田空港及び百里飛行場について、それぞれに航空管制上必要十分な空域が設定されていることが認められる。なお、前掲甲第五一号証の論説、第一一九号証の二、三、第一八六、第一八八、第一八九号証及び成立に争いのない甲第八五、第一一七号証、第一二〇号証の一の雑誌記事には、成田空域は安全でない旨の記述があるが、同空域の設置により羽田空域はそれまでの空域のほぼ三分の一が成田空域に取り込まれることになつたものの、新空港及び羽田空港が供用されている現在において、国内線及び国際線の需要を満たし、航空管制上特段の支障を生じていないこと及び百里飛行場との関係においても、それぞれ必要な空域が確保されて航空管制上特段の事情が生じていないことは公知の事実であり、右認定を覆すに足りるものではない。

右認定によれば、本件第一期事業認定当時において、新空港の空域確保のための既存の空域の調整、分離が行われる見通しがあつたものということができる。

(5) 航空保安施設用地の確保の問題

本件第一期事業の起業地(第一期工事区域)には航空保安施設用地は含まれていないこと、本件第一期事業認定当時、同用地は任意買収により取得するものとされていたことは、当事者間に争いがない。

ところで、空港としての機能を発揮するためには、法定の航空保安施設を設置することが必要不可欠であることはいうまでもないが、前掲甲第一九二号証、乙二一号証の三、第三六号証、成立に争いのない甲第一四八号証の三ないし六によれば、公団は昭和四三年度から航空保安施設用地の買収費を予算計上し、任意買収を進めていたこと、本件第一期事業の特公事業認定申請に際して、被告大臣は、公団から、航空保安施設の内容及び設置予定地については任意買収により取得するものであるとの説明を受け、その取得の可能性があると判断したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右当時、右判断を誤りと見るべき的確な証拠はない。

したがつて、本件第一期事業認定当時において、航空保安施設用地を取得する見通しがあつたものということができる。

(6) 以上によれば、第一期工事区域の土地の取得以外に新空港の供用開始をする上で解決されるべき課題との関係において、これら課題につき解決の見通し等がないから、本件第一期事業の緊急施行性がなかつたとする原告らの主張は失当というほかはない。

(五)  前記三の(1)のとおり、新空港建設自体に緊急性があつて、本件第一期事業に緊急施行性があつたことは明らかであり、同事業は特措法七条四号の要件を満たすといい得るところ、前記(三)の(2)ないし(6)、(四)の(1)ないし(5)のとおり、これを否定する請求原因3の(九)の主張はすべて失当である。

10  特公事業認定における手続上の違法の承継(請求原因3の(一〇))について

(一)  被告大臣が、本件第一期事業の特公事業認定において、特措法三九条一項の規定により、同法八条の手続規定を適用しなかつたことは、当事者間に争いがなく、本件第一期事業が、本件事業のうちの一部をなす事業であり、本件事業については収用法により収用事業認定(本件事業認定)がされ、本件第一期事業については、特措法により特公事業認定(本件第一期事業認定)がされていることは先に述べたとおりである。

(二)  収用事業認定を受けている事業に係る特公事業認定においては、特措法三九条一項で同法四条二項四号ないし六号及び三項、八条並びに一二条一項及び二項の規定は適用しないこととされている。右のうちの同法八条は、特公事業認定を行う場合に収用法二一条ないし二五条を準用することを定めた規定であるが、特措法三九条一項が右の各収用法の規定の準用を排除したのは、先に行われた収用事業認定の際にこれらの手続を既に終えており、重ねてその手続を採る必要がないということによるものである。

(三)  ところで、収用事業認定がされている事業の一部について特公事業認定をする場合に特措法三九条一項を適用して同法八条の規定の適用しないこととすると、収用法二四条の準用が排除される結果、特公事業認定に係る起業地自体を表示する図面の縦覧が手続上保障されないという問題が生ずる。しかし、この場合、特公事業に係る起業地は収用事業に係る起業地の一部であつて、収用事業に関して縦覧に供された図面に包含されているものであるから、法律上図面の縦覧が全くなかつたとはいえない。

また、特措法三条一項は、起業者が特公事業の認定を受けようとするときは、あらかじめ事業の目的及び内容並びに事業を緊急に施行することを要する理由について、事業を施行しようとする土地が所在する都道府県の知事及び市町村の長のほかその土地及びその附近地の住民に説明し、これらの者から意見を聴取する等の措置を講ずることにより、事業の施行についてこれらの者の協力が得られるように努めなければならない旨規定しており、同法一〇条一項は、被告大臣が特公事業認定をしたときは、遅滞なく、起業者の名称、事業の種類、起業地及び収用法二六条の二の規定による図面の縦覧場所を官報で告示すべきことを定めているところ、前掲乙第四号証の一、第二一号証の三、原本の存在及び成立に争いのない乙第二一号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証の二並びに弁論の全趣旨によれば、本件事業認定に際して収用法所定の公告、告示がされていること、公団は、昭和四五年一〇月一六日、成田市において本件第一期事業について地元住民に対する説明会を開催し、これに参加した住民に起業地の範囲を表示した図面を含む説明資料を配布し、さらに、右説明会に参加しなかつた住民のために新聞折り込みによつて同資料を配布し、併せて成田市役所及び芝山町役場に同資料を提示したこと、被告大臣は、同年一二月二八日付け官報で本件第一期事業の告示をするとともに、同日付けで成田市などの関係市町の長に対して同事業の特公事業認定をしたことを通知し、併せて同事業の認定申請書の添附書類を送付したこと、関係市町において、同添附書類のうち同事業の起業地を表示する図面が公衆の縦覧に供されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、本件第一期事業認定において法定の手続の欠缺がないことはもちろん、実質的にも、本件第一期事業認定までの間に同事業の起業地の図面が公衆の縦覧に供されたと同様の状況にあるとともに、同事業認定の告示後は同事業の起業地の図面が公衆の縦覧に供されたものということができる。

(四)  原告らは、本件第一期事業認定において、自らの権利を防御する機会が奪われていたと主張するが、本件第一期事業認定に関し、右(三)のごとき手続等が経由されており、これによれば、関係権利者には、同事業の起業地の範囲を容易に知り得る機会が与えられていたということができるし、仮に関係権利者が右の起業地の範囲を現実に知らないまま緊急裁決の申立てが行われたとしても、右の起業地の範囲は緊急裁決の審理の段階で明らかになるから、関係権利者は、その権利を防御する機会を奪われていないといつて差し支えない。

(五)  したがつて、本件第一期事業認定手続において、特措法三九条一項の規定による同法八条の規定の不適用は、関係権利者の権利防御の機会を奪うから憲法三一条に違反するとの請求原因3の(一〇)の主張は前提を欠き失当である。

11  以上1ないし10に判示したところによれば、本件緊急裁決には何らの違法もないから、原告らの本件緊急裁決の取消しを求める請求は理由がない。

三  本件裁決について

1  本件裁決の経緯が被告らの主張2の(三)のとおりであつたことは、当事者間に争いがない。

2  審理不尽の違法(請求原因4の(一))について

(一)  まず原告らは、被告大臣は原告らに口頭意見陳述の機会を与えなかつたと主張する。

右1の事実によれば、被告大臣は、申立てに基づき、審査請求人(原告ら)又は同代理人に対し、昭和五四年八月三〇日及び同年九月二九日に口頭意見陳述を行う期日を指定している。これに対し、右1の事実及び原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、第七ないし第九号証、第一二号証、証人大谷恭子の証言によれば、審査請求人代理人は、口頭意見陳述をするには裁決資料等の閲覧を事前にしておくことが必要であり、これができなければ口頭意見陳述の実効性がないとの考えに立つて、裁決資料等の閲覧を最優先にするとしたこと、そのため、同年八月三〇日の期日の変更を申請し、同年九月二九日の期日には、担当官から意見陳述を求められたにもかかわらず、裁決資料等の閲覧が終了していないとしてその閲覧を行い、同期日における意見陳述を行わなかつたこと、また、審査請求人小泉美代は同期日の前の同月一九日に第三子を出産したことから、審査請求人小泉英政は出産直後の妻子の世話をする必要から、両名とも同月二九日の期日に出席できない状況にあつたことが認められる。

以上の事実関係からすると、審査請求人が指定期日に自ら口頭意見陳述をすることは困難な状況にあつたともいえるが、審査請求人には代理人がついていて同代理人が代わつて口頭意見陳述を行うことができる態勢にあり、同代理人の行動は、まさにそのための準備を行つているといえるものであつたのであるが、同代理人は、被告大臣から出頭できる日を口頭意見陳述の期日として指定を受けたにもかかわらず、裁決資料等の閲覧が終了しない限り口頭意見陳述を行わないとの考えに固執して、同年八月三〇日の期日はともかく、同年九月二九日の期日については、これを自ら利用しなかつたものということができる。そうすると、被告大臣においては、審査請求人に対し、適法に口頭意見陳述の機会を与えたが、それにもかかわらず、審査請求人の側で、その機会を自ら放棄したものと評価されてもやむを得ないものということができる。

もつとも、前記1の事実によれば、本件裁決があつたのは昭和五五年八月二九日であり、右口頭意見陳述の期日とされた昭和五四年九月二九日から一一か月の期間が存在しており、その間に審査請求人から改めて口頭意見陳述の機会を与えるよう申入れがあつたのに、被告大臣はこの申入れを拒否している。しかし、右に述べたところによれば、申立てに基づき被告大臣がいつたん与えた口頭意見陳述の機会を、審査請求人の側で正当な理由なしに利用しなかつたといえるのであるが、このような場合には、新たに右の機会を与えるのを相当とする特段の事情がない限り、改めて右の機会を与えなくても、それは当然には違法とはいえないものと解されるところ、右の特段の事情については主張、立証があるとはいえないから、被告大臣のした右の拒否は違法とはいえない。

(二)  次に、被告らは、被告大臣は原告らが被告委員会の弁明書副本の送付を要求したのにその要求を容れなかつたと主張する。

行服法二二条は、審査庁が処分庁に対して弁明書の提出を求める権限を認めているが(一項)、審査請求人から審査庁に対して弁明書の提出を求めるよう請求する権利を定めた規定はなく、処分庁に弁明書の提出を求めるか否かは、審査庁の裁量に委ねられていると解される。そうすると、審査庁が処分庁に対して弁明書の提出を求めないことは、それが審査請求に係る事件の内容、審理の経過等に照らして、審査庁に与えられた裁量の範囲を逸脱し又はその裁量権を濫用したと認められる場合は格別、そうでない限り、違法とすることはできない。

前記1の事実によれば、被告大臣は昭和五四年三月一四日付けで被告委員会に対し弁明書の提出を求め、同月三一日付けでその提出を受け、同年四月二四日付けでこの副本を審査請求人に送付し、その後審査請求人から出された審査請求理由補充書(同年五月二九日付け、同年七月一二日付け)に対しては、被告委員会に対して弁明書の提出を求めていないのであるが、成立に争いのない甲第二七、第二八号証、証人林桂一の証言によれば、審査請求人の昭和五四年五月二九日付け、同年七月一二日付け各審査請求理由補充書の内容は、法律の解釈に係るもの及び既に被告大臣において把握ずみの事実に関するものであつたこと、したがつて、被告大臣は、改めて被告委員会に弁明書の提出を求める必要がないと判断したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右判断が被告大臣に与えられた裁量の範囲を逸脱し又はその裁量権を濫用したものと認むべき証拠はない。

(三)  最後に、原告らは、被告大臣が原告らに対し閲覧させた本件緊急裁決の審理の速記録及び写真が裁決資料等の全部であることを前提に、本件裁決は不十分な資料に基づいて行われたと主張する。

証人大谷恭子、同林桂一の各証言によれば、審査請求人代理人が閲覧した裁決資料等は本件緊急裁決書、本件緊急裁決の審理の議事録及び審理状況を写した写真であつたことが認められるが、証人林桂一の証言、弁論の全趣旨によれば、右書類等は、審査請求人代理人が裁決資料等の閲覧を求めた当時に被告委員会から行服法三三条一項の規定により提出されていた本件緊急裁決の理由となつた事実を証する書類等であるが、被告大臣は、右書類等だけに基づいて本件裁決を行つたのではなく、右書類等のほかに被告委員会からその後任意に提出された資料及び公害等調整委員会の意見等を参考にして本件裁決を行つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、右書類等だけに基づいて本件裁決を行つたことを前提とする原告らの右主張はその前提を欠く。

(四)  以上によれば、本件裁決に審理不尽の違法があるとする請求原因4の(一)の主張はすべて失当である。

3  理由附記の不備の違法(請求原因4の(二))について

(一)  行服法四一条一項は裁決には理由を附さなければならないと定める。右規定は、審査庁の判断を慎重ならしめ、その公正を保障するためと解されるから、理由としては、審査請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならないものというべきである(最高裁昭和三七年一二月二六日判決・民集一六巻一二号二五五七頁参照)。

(二)  本件裁決の理由は原告らの審査申立理由に対し一応網羅的に応答していることは当事者間に争いがなく、本件裁決の裁決書である成立に争いのない甲第一号証によれば、同裁決書に記載された理由は、一応の理由の記載に止どまらず、右(一)で述べた理由附記の趣旨に適つたものであると認められる。

(三)  したがつて、本件裁決には理由附記の不備はなく、請求原因4の(二)の主張は失当である。

4  まとめ

以上2、3に判示したところによれば、原告らの本件裁決の取消しを求める請求は理由がない。

四  よつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之 加藤就一 青野洋士)

別紙一 処分目録

(一)1 申立人    新東京国際空港公団

2 裁決日    昭和四六年六月一二日

3 裁決番号   千収委第七一号

4 裁決内容   権利取得及び明渡の緊急裁決

5 対象地    別紙二「物件目録」記載の二筆の土地を含む合計一二筆の土地

(二)1 審査請求人  小泉よね(原告らが承継)

2 裁決日    昭和五五年八月二九日

3 裁決内容   右一の緊急裁決に対する審査請求のうち、別紙二「物件目録」記載の各土地に係る緊急裁決取消しを求める請求を棄却し、その余の請求を却下する。

別紙二 物件目録

(一) 千葉県成田市駒井野字台ノ田二一〇五番

田  一二五八・八三平方メートル

(二) 同市取香字馬洗七〇番の二

宅地  七三四・五三平方メートル

別紙三 新空港工事実施計画

敷地面積 一〇六四万九二〇〇平方メートル

着陸帯  A 長さ  四一二〇メートル

幅    三〇〇メートル

B 長さ  二六二〇メートル

幅    三〇〇メートル

C 長さ  三三二〇メートル

幅    三〇〇メートル

滑走路  長さ四〇〇〇メートル(A)、同二五〇〇メートル(B)、同三二〇〇メートル(C)のもの各一本。幅はいずれも六〇メートル

誘導路  延長三万〇一一七メートル、幅三〇メートル

エプロン 面積一九〇万七七六三平方メートル

構内道路、駐車場、排水施設、飛行場標識施設その他一式

工事完成の予定期日 滑走路A及びこれに対応する諸施設(以下「第一期施設」という。)は昭和四六年三月三一日

右以外の施設(以下「第二施設」という。)は昭和四九年三月三一日

(工事実施計画の変更認可を受けた事項)

誘導路  延長二万九六五〇メートル

エプロン 面積二五〇万五九〇〇平方メートル

別紙四 第一期施設

総面積  五五〇万四一〇〇平方メートル

着陸帯A 長さ   四一二〇メートル

幅     三〇〇メートル

滑走路A 長さ   四〇〇〇メートル

幅      六〇メートル

アスフアルトコンクリート舗装

誘導路  長さ  一万五四九〇メートル

幅       三〇メートル

アスフアルトコンクリート舗装

エプロン 一一六万三九〇〇平方メートル

セメントコンクリート舗装

構内道路 延長        一万二五一〇メートル

駐車場         二九万八七〇〇平方メートル

旅客取扱施設区域     六万〇七〇〇平方メートル

貨物取扱施設区域    一三万〇五〇〇平方メートル

飛行場保守管理施設区域  五万四九〇〇平方メートル

航空機整備施設区域   一五万五五〇〇平方メートル

別紙五 新東京国際空港計画平面図<省略>

別紙六

特措法施行規則四条別紙様式第三

様式第三 〔第四条〕

緊急裁決申立書

起業者     住    所

氏名又は名称

土地等の所有者 住    所

氏    名

関係人     住    所

氏    名

年  月  日に裁決を申請しました事件について、左記により、公

共用地の取得に関する特別措置法第二十条第一項の規定による申立てをしま

す。

一 土地の所在、地番及び地目等

二 権利取得裁決の有無及び既にされているときは、その年月日

三 土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の期限

四 緊急裁決を申し立てる理由

年 月 日

起業者 住    所

氏名又は名称        印

収用委員会 御中

別表一 収容裁決申請一覧表

申請(1)

申請日(2)

申請対象地

土地所有者等

への通知日

公告日

縦覧機関

裁決日

第一次申請

三・三

六件六筆(3)

三・一六

三・一七

三・一八から三・三一

一二・二六

第二次申請

五・一三

七件一四筆(4)

五・二九

五・三〇

五・三〇から六・一三

第三次申請

六・三〇

八件一九筆(5)

七・六

七・八

七・八から七・二二

第四次申請

八・一五

二件二筆(6)

八・一八

八・一九

八・一九から九・二一

第五次申請

一一・三〇

一四六件三五六筆(7)

第六次申請

一二・一五

一件一筆(8)

〔注〕

(1) 第一期工事区域の土地については権利取得裁決申請及び明渡裁決申立ての両方であり、第二期工事区域の土地については権利取得裁決申請だけである。

(2) 日付はいずれも昭和四五年である。

(3) いずれも第一期工事区域の土地である。

(4) 本件一二番地を含み、いずれも第一期工事区域の土地である。

(5) 本件一八番地を含み、うち六件一七筆が第一期工事区域の土地であり、その余は第二期工事区域の土地である。

(6) いずれも第一期工事区域の土地である。

(7) 二四番地を含み、うち二三件二六筆が第一期工事区域の土地であり、その余は第二期工事区域の土地である。

(8) 第一期工事区域の土地である。

別表二

物件の所在地

該当物件

進入表面、転移表面若

しくは水平表面の上に

出る高さ又はこれらの

表面への近接の程度

種類

数量

成田市駒井野字高芝661

立木

40本

進入表面上5.0M

〃   662-1

93〃

進入表面下0.1M

〃   613

7〃

進入表面上2.6M

成田市駒井野字寺方534

13〃

〃  1.4M

芝山町岩山字中袋2,016-8

98〃

転移表面上4.7M

〃   2,016-16

193〃

〃  8.6M

〃   2,016-7

250〃

進入表面上5.5M

芝山町岩山字崩落台2,012-12

100〃

〃  12.3M

〃   2,012-10

100〃

〃  9.3M

芝山町岩山字大沢60-1

150〃

〃  4.3M

芝山町岩山字崩落台2,012-4

3,230〃

〃  4.7M

〃   2,012-3

150〃

〃  2.1M

芝山町岩山字北谷75

400〃

〃  4.3M

〃    76

400〃

〃  7.2M

芝山町岩山字押堀1,903

260〃

進入表面下0.1M

〃    1,904

100〃

〃  2.1M

芝山町岩山字長造1,909

60〃

〃  1.3M

〃    1,918

200〃

〃  4.5M

芝山町岩山字長造台2,011-29

277〃

〃  2.3M

〃    2,011-1

250〃

転移表面上4.3M

〃    2,011-9

700〃

進入表面上6.5M

芝山町岩山字蟹ヶ谷1,883-1

1,000〃

進入表面下4.7M

芝山町岩山字金垣1,882-2

鉄塔

1基

進入表面上9.4M

芝山町岩山字押堀1,898-9

1〃

〃  39.0M

別表三

羽田空港における乗降客数

区分

乗降客数(人)

国際線

国内線

合計

昭41

1,629,206

2,648,771

4,277,977

42

1,756,324

3,378,733

5,135,057

43

2,027,679

4,474,608

6,502,287

44

2,157,189

5,732,529

7,889,718

45

2,613,502

7,748,724

10,362,226

46

2,790,809

8,280,393

11,071,202

47

3,448,803

9,036,545

12,485,348

48

4,753,439

11,236,701

15,990,140

49

4,891,992

12,273,141

17,165,133

50

5,473,019

12,945,917

18,218,936

51

6,250,938

13,749,840

20,000,778

52

6,714,738

16,420,034

23,134,772

別表四

羽田空港における平均乗降客数と平均発着回数

区分

1機当りの平均

乗降客数(人)

1日当りの平均

発着回数

国際線

国内線

国際線

国内線

合計

昭41

62.1

32.1

71.9

226.9

298.1

42

52.4

43.4

91.8

213.5

305.3

43

50.9

51.9

108.7

235.7

344.4

44

46.4

57.3

127.4

274.3

401.7

45

53.0

67.8

135.1

313.1

448.2

46

51.6

71.2

148.1

318.7

466.8

47

64.3

78.8

146.6

313.3

459.9

48

87.2

97.7

149.4

315.2

464.6

49

95.8

101.7

139.9

330.5

470.4

50

105.2

113.6

142.6

307.4

450.0

51

113.0

121.6

151.2

309.0

460.2

52

121.4

145.1

151.6

310.0

461.6

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